五月雨坂
 
 
 
 
 
 

葉桜の枝が 湿った風に頭を振るたび

五月雨が糸のように頬にからむ

 

彼女は心をまさぐり

まだ自分のナイフが

研ぎ澄まされている事を確かめる

この刃はお守りではないのだ

いつでも

きっと いつでも使えるはずだと

念を押す

 

朝に夕に口の中で唱え続けた一節

また繰り返しながら坂道を登る

言葉はすでに

精神の一部なのかもしれない

 

長きに渡る坂道

この想いが

葉桜をぬらす雨に錆びてしまわぬよう

萎えてしまわぬよう

はやる気持ちは生かしつつ しかし

叫びだしてはしまわぬように

口の中で一節を繰り返す

 

五月雨の降る長い坂道で

坂を降りてくる人に

心を盗み見られぬよう

つぶやく声が聞こえぬよう

濡れた髪で顔を覆う

 

お前の肩にもたくさんの雨の糸

重かろう

古ぼけた街灯に明かりが灯り

葉桜は黙って頭を振り振り

彼女の背中に雨粒を落とす