虹色のゆくえ
 
 
 
 
 

カナリアのかごのとびらを

開けたのは私です

毎朝 冷たい水をかえてあげるのが

もういやになったからです

 

 

かあさんのどなり声に ただ

下を向いていました

 

 

ほんとうはさっき

ガラス窓のすきまから

シャボン玉を吹いていたのです

 

 

ストローの先から風にのり 

まあるく無邪気に

ツゲの木の下まで流れるけれど

だれもその先の空へと行けず

ぱちんぱちんと割れてしまうから

 

消えてしまうから

 

くりかえし くりかえし吹いていました

 

 

そのうちに

その命の誕生と終わりは

私が作っているのだと気づいたら

居ても立ってもおられなくなり

 

 

独り言をつぶやいていた

みかん色の

カナリアのとびらを開けました

 

 

私がかごを揺すると

ニ、三度 とびらの前で

戸惑うように左右に揺れましたが

思い切って飛び出すと

 

 

小さな風にのり ガラス窓のすきまから

どんよりした2月の空の中へ

みかん色が消えてゆきました

 

 

あっという間のことでした

夢を見ているようでした

 

 

かあさん

 

 

ほんとうはさっき

かごの中のひとつの命を

私が解き放ってやったのです

 

 

夕方から

凍った雪が 夜通し続いて降りました

 

 

シャボン玉の虹色の夢とカナリアが

飛んでいった先は

かみさまの国だったのではないかと

気づいたのは

それからずっとずっと

あとになってからでした