紺色の少女
 
 
 
 
彼女には大きすぎる紺色の帽子
衣替えの日まで続く重い冬服
あたりは夕暮れにさしかかり
やがて色を失いつつある


紺色のリュックに背中を押されながら
五月雨の坂道をゆっくり昇っていく
黄色い傘だけが彼女がそこにいると
教えてくれる

学校では1676
寄付金の額で決まる番号
道徳の時間はイエス様に手を合わせ

たしざん おはなし クレパス てつぼう

頭の中の玉手箱を開けて
色とりどりの石を眺めながら
時間などお構いなし
彼女はうっとりと夢を数えて
果てしなく長い坂道を登る

ふいに脇に止まるなめらかな車
お下げ髪ふりふりうなずき短い会話 
窓は速やかに閉まり
母親は坂を下り狭い商店街へ乗り入れ
そして豆腐屋へ車を横付ける

五月雨に濡れた葉桜が
見守る春の夕暮れに
少女の心の灯り ぼんやりと
灯ったり 消えたり

未来の扉はきっと坂道の先にある
いつか紺色の1676号から
大人になるとしても

その日まで
ひとりだけの玉手箱の世界と
日常を行き来しながら
優しく大きな黄色い傘に守られて

どうかやすらかであるように

「ごきげんよう」
くるり 雨がスカートを揺らし
やがて小さな少女の春は往く