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ハナミズキの頃 |
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昼前のバス まのびしたアナウンス お客様 ただ今この先 混雑しております 渋滞の中のろのろ進むバスは 夢うつつを運ぶ箱 5月の陽が窓いっぱいに射し込む温室で 誰もがしばし頭をたれて まぶたに踊る光 車窓から見えるハナミズキの若葉には かなたの記憶が 揺れている むかいの男の子の細いGパン すねの辺りがたどたどしい 転居届けを出しに 見知らぬ土地の区役所を探す みず色の半袖 きれいなお母さん 長い髪がおすましお嬢さんと瞳を交わして 心躍る新入生の日々 惜しげもなく 紫外線にさらした 短パンの白い足 草はらのソフトボール大会 そよぐ風はあの日と同じ ハナミズキの季節は 何度もめぐりくるのに どこへ流れていったのだろう 記憶の中の人々は 遠くから笑いかけるだけで 交差点にさしかかり バスはゆっくり左に曲がり停留所へ お客の頭も左に揺れて まどろみの中で あの頃に手を振る 目をこすりタラップを降りれば 輝いた季節のカケラ達が 街路樹のこもれびに きらめきながら消えてゆく
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