ガラスの小宇宙
 
 
 
 
 
 

特売アナウンスが響く

レジ横に置かれたカードゲーム

少年剣士がいざなう その先の荒野を

見つめる瞳

 

お客様 5時から夕方セールでございます

太陽が傾くと

どこかのドアから現れる見知らぬ主婦達

そうなの だからわかるでしょ そうなのよ

表通りとガラス一枚で仕切られた店内には

おしゃべりの生活和音が満ちている

 

あなたのおかあさんはどこ?

 

さあぼくといこう こんどはまけないぞぅ

 

少年剣士は

さっきから幾度も荒野へと誘う

 

きょうねぇ ポチおしっこしちゃったんだよ

わたしのスポンジは くまさんのお顔なんだよ

 

女の子のちいさな玉手箱の中では

まるでシャボン玉の渦巻き模様のように

思考の線路が果てしなくめぐり

言葉の列車は彼女を乗せて

疲れを知らずに走り続ける

 

汗とアメのついた

その桃色の手のひらのうえにある玉手箱

彼女の作る小宇宙

 

かがやく瞳で剣士をみつめる彼女の横を

重そうなカートを押す母が歩み寄る

 

玉手箱の扉は静かに閉まり

ひとこと ふたこと 言葉を交わし

うん うん うん 首をふりふり歩き出す

 

荒野へいこうよ ぼくとしゅっぱつだ

剣士はくりかえす コインを入れるまで

また明日 店舗のあかりが消えるまで