煩悩
 
 
 
 
 
夕飯の鍋を荒々しくかき混ぜる

あれからずっと

何をする時も一緒

 

夕方の消防署の鐘がなる

お豆腐やさんの笛

駅前から 脇の路地へと移動してゆく

 

もう

 

出て行ってよ

 

聞こえないように 小さくつぶやく 

いつまで居座るの?

あんたのおかげでスケジュールは狂いっぱなし

 

こんなはずじゃなかった

私にはもっと安らぎがあって

ちょっとスマートに

暮らしを楽しめるはずだったのよ

 

目の下の街路樹には ちらほら桜の芽

 

あれが膨らむ前には

 

自由を手に入れる

静かな暮らしを

 

みずいろのスプリングコートで買い物して

なんとかというオレンジ色の

どこだか製のキャセロールで

私は

トマトスープを作るの

白いワインを買って 

シャワーで垢を落として

煩悩 あんたの居た 痕跡なんか 

あとかたもなく 消して