漂流者の足の裏
 
 
 
 
 
穴の中からとび出した足の裏が

ふたつ ころがっている

ブラインドが

砂ぼこり色の風に吹かれ

ガタンガタン

 

 

何度も往復する救急車のサイレン

 

 

朝帰りのバイクの音

 

 

もうどれぐらい たつだろう

こうしてここで 息をひそめていると

音が 外の世界を連れてくる

 

 

窮屈な穴からはみだした 足の裏

ひんやりした風が撫ぜ

音は 身体の中をゆるりと通り

ドアから廊下へ 流れ

 

 

消えてゆく後ろ姿を見ていた

 

 

おおかみが来ない事を確かめて

でも 穴から出る気は まだしない

 

 

ロビンソンクルーソーも

ほら穴の奥から

ゆがんだ空を見たろうか

 

 

おおかみが来たら火を焚いて

 

 

彼は思う

そうだ今日は

岬の先まで行こう 杭を打ち

黄色い旗をかかげて

こんどは ながい水平線に

小さく 船が来ないか ながめよう

 

 

私はささやく

どちらにしても殻は背負っていくべきだ

穴のかわりに

 

 

漂流者の足の裏は

もっと固くてこわばっているだろうか

  

 

音をあつめたり 森を歩いたり

風にくすぐられたり

  

 

漂流者の足の裏は

やっぱり穴から出ているだろうか