長い秋 |
お昼過ぎた頃 部屋に流れ込むキンモクセイの香り 裸足で歩く板の間の冷たさに 秋が来たのを知る 分厚い本に眠っていた 古い記憶の香りが ページ繰るごとに まなこの上に ひらりひらりよみがえる 閉じ込めた思いを誘い出そうと 秋の思惑 幾重にも折りたたみ しまい込んだ なのに 白いカーテンの裾がまあるく踊り 風が誘う いちど糸がほつれたら 溢れ出し 宙に舞い出すだろう とめどない記憶の香り 葉陰が白壁に長く這い 陽が西に傾けば 指先に冷たくしみる夢のはかなさ これから始まる長い秋を思う度に みえない不安が 私の周りに降り積もる |