槿(むくげ)
 
 
 
うす紫色の 蝶の羽根のような花びらを

毎朝 惜しげもなく散らしては

次の日も 日が昇る頃 あふれるように花開く

この夏はずっと それを見ていた気がする

 

いちにち花

私は毎朝その木の下を掃いては

屋根より高くなった梢を見上げる

早起きのセミが 今日の暑さを伝えるように

勢いよく鳴きはじめた

 

ほうきをにぎり

うつむいて しきりに散り花を集める

誰も見ている人などいないのに

よそ行きのほほ笑みを 口元で作り

触り良い言葉を 頭の中で繰り返し

なのに

手洗い場の鏡が映した表情は

石のように固くて

 

掃き清めた庭で 風に揺れる槿

夏の終わりまで 途切れることなく

私をなぐさめるようにぽとり また散る

いちにち花