望郷
 
 
 
 
 
 
夕焼けにそまったタイザンボク

鍵のかからない木戸をくぐり

 

おかえり

奥の部屋からか細い声がする

昨日も

帰ると布団の中にいたね

 

涙のニオイを感じながら

気づかぬ振りをして

ランドセルを机に置く

 

「お母さん、」

カナシイコトガアッタノ?

 

「わたし 羽が生えてきたみたい!」

 

私が歌うといつも褒めてくれたね

私がピアノを

勝手に辞めて来た時も なぜ黙っていたの

 

秋の香りがする帰り道

あなたを超えようとすればする程

私は迷路に迷い込む

 

影のように寄り添い

行く道を照らし

 

でも

あなたに代わってあげられない

あなたの涙を 私はふけない

親不孝者の その代償として

いつか私も同じように

悲しみの壷に閉じ込められようとも

 

私は 私の羽をつくろい

未だ あなたの手から飛び立とうとして

飛び立てない

だからいつも 空ばかりみている

幼い頃に生えた羽を 胸に抱えたまま