開けっ放しのドア 7月の小雀が 青い空ばかり見つめて はばたきを繰り返す 今日 彼女は 靴を乱暴にはいて 飛び出して行った 開けっ放しのドア 誰が閉めるというのか あの日 ドアをバタンと開け放し 出て行った私は 目をらんらん輝やかせ 鼻息荒く 駅までの坂道を 大股で歩いていった 彼女は 今頃 どこまで行ったろうか 言い足りない 伝え足りない 手渡せなかった いくつもの言葉 私はもどかしくて 部屋をぐるぐる歩き回る 窓から首を伸ばして あとかたもなく 歩き去った表通りに 姿を探す 学校に 遅刻はしないだろうか 短髪の彼女のその横に 髪を長く二つに編んだ あの日の私が並んで歩いている いや ちがう 彼女は一人で歩いている 風に吹かれ 川を渡り 私の来た道とは 違う道を 私の行く道とは 違う道を 「ふりむかなくていいよ」 だけど 「あなた自身を よく見つめてちょうだいね」 母として 心でくりかえす私 その言葉に重なるのは あの日 飛び出した私を 見送った人の声 小雀が飛び去ったあとに あの人も 悲しそうな目で 開けっ放しのドアを閉めたのだろうか ふりむかず歩いていった私には わからない |