夜風と私








Johnがこの世から消えてしまったとラジオで聞いた夜

好物の母の餃子も食べず2階の窓を開けて

月も星も見えない空に手をあわせた

 

灰色に限りなく近い闇夜は

彼の長い旅路の果てへと きっと続いている

夜風よ この祈りを運んでおくれ

闇に小さな灯りをともすような気持ちで

私はぶつぶつと繰り返した

地図にも載らない地球の片隅で 

 

4人の足跡を映し出したフィルムコンサート

満席の若者たちは映像に向かって歓声を上げた

私も戸惑いながらスクリーンに拍手した

本当はそんなこと必要なかった

なぜなら心の中に 

自分だけの4人の手触りがあったから

 

重い鉛色の波が繰り返し寄せていた時代

私は思った方向へ進みたくて

右へ泳いだり左へ泳いだりした

 

汚れたアスファルト 水たまり

季節の匂い 見上げた空 

私は朝が来るたびに 抜け殻を脱ぎ捨てた

それらはどれもみなペコペコのプラスチックのようで

握りしめた手の中で

砂のようにこぼれて散った

 

部屋の中で自分を鏡に映しては

いつも自らの輪郭を探していた

 

そして 居場所を探していた

毎夜10時40分発 最終バスの時間まで

 

帰り着くのは 終点の小さな停留所

私ひとりがタラップを降りると

夜風が

「おかえり」と ほほをなぜてくれた