つぶやき





こころで生まれて 唇から放たれた言葉

花びら 灰 ちぎった紙切れ うしろ姿

みんな寂しく風に散る 

 

横たわる 太く 広く 長い 時の河

川上から つぎつぎと太陽と月が流れてきて

朝を運び 夕を運ぶ

 

私は指先を緩め 櫂を手放した

とうとうと ふくよかな流れ

すでに 天にまかせたこの身では

ただ 流れの水底にたまった後悔だけを

すくいあげる

 

なのにまだ  ひとしずくの熱い流れを

忘られず

ひとり 船上人は 唇をかむ

 

風にふかれているだけで

語る人などいないけれど

 

涼しい眼の人は涼しい風のような話し方を

つぶらな目の人は小鳥のようなかわいい話し方を

深い目の人は深い海のような話し方を

やさしい目の人は心温まるやさしい話し方をしていた

 

カーテンの隙間から差し込む光と 去来する記憶

言葉の数々が その人影の輪郭をも

鮮やかに私に刻んだ

 

時の河に 日が沈む

河上から 月と星が流れ来る

時の河は 土の色をしている

足をひたせば なまあたたかく 眠りを誘う