海鳥 (うみどり)


南の空から 旅して来たお前
胸に顔をうずめると
潮の香りがする

私が暗闇で
凪のような静かな呼吸を
一度、二度と 数えていると
お前は語り出した 旅の話

飛影を低く落とし 春風と駆け抜けた
暖かい緑のくさはら

波頭を白くはじき 
弾丸のように とびうおと競った
太陽にキラキラと照り返る大海原(おおうなばら)

でも
まあるい胸の熱い鼓動は
触れた私の手を
私が待っていた一言を 力強く跳ね返す

残された見慣れぬ色の花びら一枚 
夢の 置き土産

闇に誘われた風の使者 勇敢な海鳥は
ツバサを広げ
再び 黒い風に乗った

どうか翼をおらぬよう 月明かりたどれと 
旅路を祈るだけ
この身 どうすれば 風に溶けるのか

日の出のほうへと 
ひたすら 流れ 流れたら
海鳥の群れに 追いつくだろうか

お前達の 大きな翼のあいだを
くるり くぐり抜け
胸のうぶげを くすぐるのだ

潮の香りとなり
くさはらの香りとなり
はるか眼下 箱庭の世界を眺め
喜びに 小さい風の渦となりながら
海鳥達と どこまでも旅するのだ

ただ 寄り添っていたい