風が生まれる


初夏のゆたかな生命(いのち)のあかし

ケヤキの枝先が ほころぶ時 

わか緑色の風が生まれる

 

お嬢さん、お嬢さん、 

うかれて声かける

草はらの タンポポ はるじょおん

 

風は まるんと ハズカシそうに 

黄色に頬染め はずんで逃げて

表通りへ ころげ出る

 

信号待ちの若者 

ハンドル持つ腕の 輝く金色のうぶ毛に

目をみはり そっと近づき 触れてみる

 

はにかんで

まるい風は ももいろ

 

気がついて 探して  

私が見えなくても 感じて

 

午後の光にチイサナ竜巻 起こし

はらはら 八重桜のはなびら

思い切り散らしてみた

 

気がついて 探して  

私が見えなくても 感じて

 

日が翳り

吸い寄せられるように

風が低く ビルの間の路地に集まる

 

もうお帰り やがて 

うす紫の絹をまとった 風が現れる

あたりに安息のベールを降ろし 夕闇を呼ぶ使者だよ

 

優しく揺れる柳の木の下で 

みんなと一緒に眠りなさい 

明日は 海原を駆けゆく 夢をみて