境界線

 

 

誰も入らないで

私は境界線を引く

 

私は 私の輪郭を 存在を 探している

 

のぞかないで 大切なものを  

私が 確かに居た と感じられる時を

灰緑の風が吹いた 穏やかだった時を

 

平たいスプンで

母といちごをつぶした

遠い5月の午後の大切な記憶

 

ミルクの白は

いちごの赤にそそがれ ひとつに融けあった

いつまでもながめている私に 母のため息が聞こえた

ガラス窓の外を砂色の強い風が過ぎると

母は 竜巻が来るよとつぶやき 私は身をすくませた

そしてすぐに 楽しい午後は終わり

私はテーブルに残された

 

手のひらの上の桃源郷は

それ以後 ずっと枯れたまま

 

校庭に つま先で陣取りの線をくように

私の身体ギリギリに 

ぐるりと境界線を引いてみる それが私

 

あれから

自分がどうなってしまったのかが

知りたくて

自分のまわりを切り落とせば

私の輪郭が 見える気がして

境界線の向こうを通る足音は誰?

押される事のない呼鈴に 耳を澄ます

来客用のテーブルもない

気の聞いた言葉も しゃべれない

それどころか あなたを不愉快にさえしてしまうかも 

 

それでも 本当は待っている

あの日のように 私と向かいあい

いっしょに いちごをつぶして下さい

境界線の内側でつぶやく言葉は

灰緑の午後の妄想とともに 風に消えた

 

赤い汁をスカートにつけた

おさげ髪の私が 誰もいない校庭で

境界線を引いている姿を

きっと 遠くから優しい目で 見ていて 

あの過ぎた5月の午後のように