老犬

 

武器を持たず

ぶざまな戦いをくり返し

敗北しては不機嫌そうにハシを動かす

夕げのごちそう時

 

私の禁句は 悲しい目をした老犬と

神さまだけしか知らない

いつか罰が当たって私は石にでもなるのだろう

私の後ろにポタポタ落ちる禁句

いつもいつも 飲み込んでいてくれる

飼い犬が 急にトシをとったのは そのせいだ

 

毎日ぬるま湯に浸かりながら

自分を囲うしか術がない

今日も キッチンで 

小さな世界を守るため 禁句を壁に塗りこめる

 

良心だけを 持って生まれていたら

人はいつも 暗く悲しい目をしていたかもしれないね

じっと誠実に座り続ける この老犬のように。

ワイドショーを見て 玄関先の掃除をし

のうのうと日常を生きている臆病者

 

そして 

日々の文句は ゴミと一緒にダストボックスに溜まる

おろかな夢を見つづける私を

老犬は責めもせず 毎日静かに見つめている

神さま なぜ人間だけが

良心以外のものを持っているのでしょうか。