昭和の秋

 

 

古いかわら屋根に 弱い午後の日差しがかたむく

ばあちゃんは けして覗いてはいけないと言う古井戸 

トタン板のフタに大きな石がのっている

 

低いドウダンツツジの生垣の向こうは

小さな畑と踏み固められた黒土

雀の声 柿の実が太ってきた 今年は甘いかな

じいちゃんのした焚き火のニオイが好き 

私は下駄で 灰をつつくと くすぶり白い煙がたちのぼる

 

たつのりくんは「どろけい団」の親分だったのに 

春に 黒い詰襟を着てからは ずっと知らん顔

中学から帰った たつのりくんは 今日も戸口に集まる我々に目もくれず

「じゃ、」と無常にも がらがらと引き戸を閉めた

 

けいちゃんのお母さんをみんな好き だって

魔法使いのようにシュークリームを作ってくれるの

うんと時々だけど

薄暗く狭い台所から 

けいちゃんがしずしずと登場してくる

目を輝かせて待ち構える子供達の前を通り

おごそかに作りたてのシュークリームをちゃぶ台の上に置く

 

商店街の外れの空地の人だかり

まな板に とすっ と千枚通しでドジョウをくぎづけ

すぱり 見事に包丁でさばく 半身になったドジョウは

まだぴくりぴくり身体を動かす

きっと自分が半身になったことに 気が付かないんだ

足元のたらいには我先にと逃げ回り キュキュと鳴くドジョウ

 

おじさんはいったい何歳なんだろ

子供達の視線を感じたのか

ドジョウ売りは 怖い顔をして先のない親指を黙って立ててみせた

子供達は 見てはいけないものを見たような気がして 

急いで散っていった

 

あきらくんちの縁側から 夕方の子供番組の音が聞こえる

あんなの見てるのか 幼稚だな そうか弟と妹がいるものな

 

裏口の水道で

かあさんは割烹着を着て里芋を洗っていた

私は勝手口に座り

ぼんやりと 夕ご飯は またアジの干物だなと思い

それから

とうさんが今日はお酒をまなければいいな と思い

朱色の空を見あげていた

 

燃えるように空に広がる夕焼け

毎日を 季節を 五感で受け止めた子供時代 

昭和の秋の風景は

まるでビデオテープが途切れたように そこで止まったまま

もう 動いてはくれない