あの秋知った事

 

 

踏み切った 高く飛んだ そして着地のはずが

背中から落ちた

 

息ができない

頭の中で 繰り返し言葉が踊っていた

『こんなはずはない』

伝えなくては 誰か。

動く手で空をつかむように もがく

 

なぜが冷静だった

『あぁ、大変な事になった』

クラスメートのざわめき かけ寄る足音

後は もうあまり覚えていない

 

私は程なくギブスをまきつけられた

それはパイプで出来ていて

装着すると、まるで亀の甲羅を背負ったようだった

 

先生は数日おきに

ケーキを持って私を見舞いに訪れては

海の事、生活の事、失恋の事…

私の知らない、色んな話をしてくれた

 

カエデの大きな木にからむツタが

赤や黄色に衣を変え やがて散っていく季節

学祭も 音楽祭も 期末テストも すべて欠席

でも私は先生を手に入れた

 

そんな気がしていた

 

床上げしてから

先生は不機嫌になった

職員名簿を見て 電話をする でも留守

職員室をのぞいても 黙って怖い顔をしていた

 

私は

現実を知る

 

描いていたガラスの映像は 砕け散り

悲しくて 惨めだった

 

おばかさん

私は美しくもなく華奢でもない

足も太く髪の毛も太かった

 

一人で夢見ていた事を ひたすら恥じた

襲ってくる自己嫌悪

あの時はじめて気が付いたのだ 

おとぎ話は やはりおとぎ話なんだと

 

背中は快方に向かいつつあった

しばらくは 亀の甲羅を背負ったままの通学

母は 甲羅を背負ったままスカートが履けるように

ウエストのカギホックにゴムを渡してくれた

 

私の恋はそれで終わった

現実を知ることを

教えてくれてありがとう

 

私を包んでいた亀の甲羅は 役目を終えて

押入れにしまわれ ずっと静かに休んでいたのだが 

二十歳をずいぶん過ぎたある日 捨ててしまった

 

さよなら

私の季節を守ってくれた 亀の甲羅