「あなたのために」

 

 

「あなたはどうしたいの?

あなたのために 皆、大変なのよ」

 

いわないで

きかないで

わたしは もうどうにもしたくない

わたしは ただつらいの しんどいの

 

牛乳びんに水をくむ

午後の窓辺で きらきら光る

 

わたしの身体も牛乳びんなんだよ

 

もう いっぱいなの

かろうじて

表面張力で保っているけど

揺らしたら こぼれる そして

それから どうなるんだろう

 

「あなたのために皆が苦労してるのよ

あなたのためにしているのに

なぜわかってくれないの?」

 

わたしにきかないで

わたしは つかれているの しんどいの

 

「あなたのために」と言われると

重荷で 心がつぶれそうになる

 

「あなたのために」と

みんなが口にするたびに

わたしの水位は上がっていく

 

もう いっぱいなのよ