解放

 

 

心細い6月の扉が開く

不安は灰色になり 自分の中に沈殿し、それが溢れて

行く当てもなく 静かにあたりに流れ出す。

遅い午後。 矢車草がひとつふたつ 緑の中で揺れていた。

 

朝から気持ちの焦点が合わなかった。

言い訳かもしれないが きっと低気圧が来ているからだ。

お陰で 人ごみで突き出された腕を かわすひまもなく

くくりとられ まるめこまれる

 

おろおろと反論の言葉を探す私の顔は 赤いのだろう。

とっくに場面は変わっているのに 今頃パクパクと口を動かしたって

言葉は誰にも届かない。

午後いっぱいは そんなふうに自責の念を手のひらでこね回す。

 

帰り道 地下鉄口で

アスファルトだか梅雨の空だか 区別もできない灰色の風景 

とつぜん そらから落ちてきた一粒、見上げれば

頬の何かのしずくと区別できない 温かい雨

ああ

このままその水滴と昇華して 水蒸気となって 

 

私を解放して。

 

私の瞳に その時写っていたのは

都会(ここ)とは違う風景 

梅雨に忍ばせた安堵が たゆたう

矢車草の薄ピンクと紫が灰色に融けゆく風景。