砂一粒

 

 

日常から切り離され古い木々に囲まれた 白い建物 

それは大きな砂時計でできている

 

命が 砂時計の柔らかい曲線を滑り落ちる

ガラスの中は それは砂漠で

出口が見えずさまようばかり

手のひらで砂をすくえば 乾いた風に散る

砂一粒 ひとりぶんの命

 

カーテンの中の小さな空間にはベッドと物入れ

14インチのテレビでは

にぎやかなお昼の番組 無音のまま画面だけが揺れる 

 

チク タク 小さな時計の音 

隣の病人の安らかないびき

505号部屋では ベッドの間を 時が重く静かに流れ

かすかに 命が削られてゆく気配がする

 

あたたかな手を握る まだこの世にいてください

天国の台帳には 何番目と書いてありますか

生まれた時から 誰もが黙って

長い行列に並んでいる

時の番人が待つ 大きな扉の前に向かって

 

白いシーツの上に投げ出された腕は

弱々しく しかし確かに脈打つ

 

台帳の名前を消す方法を 私は知らない

点滴の一滴づつ まだ明日への力を

血液の中へと どうぞ運んで 

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