春町


何だ まだ2月というのに この生暖かさ まだ早い

心構えなく 人ごみで 偶然

姿を目にしたように 心がさわさわと波立つ

 

そのせいだ。 あんず色の 大きな丸い月が出た

のよん とよどむ。

暮れかけた藍色の空に弾む ゴムボール。

こんな夕方、

  忘れ物を取りに行く子供は妖怪に出会ったと思うだろう

おかしな気配にフト空を見上げ

ぬうぼうと浮かぶ姿に 驚き立ち止まるかも。

 

お月が出たからと 慌てる事もないのに

独り言をつぶやき 車を走らせ そちらばかりがとても気になる。

チラチラながめては 知らずに話しかけている。

おい何で出てきたんだ 今頃に。

 

何とか薬屋の駐車場に着き 窓を開ける

生暖かい湿気が入り込む

 

孵化したばかりの春風 

窮屈そうにぐぬぐぬ身体をねじり

路地を抜けてゆく

 

昨日は 凍る思いで家路を急いだ

そして今夜いきなり春なんて

この街にはまだ 心構えが出来ていない。

 

かたくなな思いは自然にゆるみ そしてほどけてゆくのかな

みずみずしい果実のような丸い月

ふるふると風に揺れる

うれしいやら どきどきするやら妄想が膨らんで。

 

玄関から裸足で二、三歩 歩き出でては

まだ空にいるかい? どこまで天に登ったか?

うす闇の中 白い山茶花が 

とまどう心を持て余す 私を眺めて笑っている