雨音

 


 

雨音が窓をたたく音に気づくのは

必ず夜明けを少し過ぎた頃。

あと少しの眠りの猶予を与えられ

冷たい足先を重ね

自分のぬくもりの中に またもぐりこむ。

 

今日が来た

布団から起きた瞬間に 頭のドアを開け

言葉達が 耳の奥に勢い良くなだれ込む

いちいち聞いていられない

布団の上に丸くなった犬を払いのけるように立ち上がる

 

365日 牛乳を欠かさないように

こうして毎日は同じようにはじまるのだけど

食卓に並ぶ笑顔も 少しずつ年を重ねる

小さなクツをはき 玄関から出かけた姿も

犬が来た あの冬の午後も

こうして同じようにはじまった朝があった

 

何も変わらない 朝を迎え

夕暮れにアカネ空をながめ 一日を見送る

ベランダで季節の風を感じる 

それが世界からの便りのすべてと思い

胸が痛くなったり 返事の言葉を独りつぶやいたり

スリッパをそろえ 炊飯器のスイッチを入れ

 

いつの間にここまで来たかと 思い迷う間もなく

カタ コト 鍋がゆれ お湯が沸く 玄関のベルが鳴る 

「私は満足である。」 と心で文字をなぞってみる。

子を産み、家事をし、仕事をし、家庭を守り

繰り返す「時」の列車に 皆で揺られて。

どこへ行くのか 終点はあるのか そんなこと知らない。

生きていく理由がほかにあるだろうか?

そう これが片道切符だったとしても。

何も考えまい 時よ私の背中を押してくれ。

降り続く雨音は子守唄。 優しく私をなだめるように

開いたバラも 今朝の雨に散っただろうか

そう思うまもなく 再びの眠りに誘い込む