鬼の棲む日々

 


 

茜色のさす 古い校舎

木のぬくもり きしむ階段の音。

中傷の言葉は闇のヘビのように

教室の隅のホコリに紛れ 攻撃の機会をうかがう。

しかし人は

水洗トイレのように

軽々とノブを押し 中傷を流し去るすべを持っていた。

入学して初めの一年間、トイレは水洗ではなかったが。

 

クラスの窓の外には

柳の大木が 校舎に寄り添うように立っていて

毎日、毎時間、じっと教室をのぞき込んでいた。

 

校門からあのカドまで西に向かってまっすぐ、

直線距離100メートル。

放課後は 夕日が輝く一本道となる。

その道を

イエローブリックロードと勝手に名づけていた。

 

誰かに涙を見られたのだろうか。

帰り道で飛んできた言葉。

「鬼の目に涙!」

なんて見事な表現だろう! 感心さえしつつ

太陽を背にして振り返る。

表情は 逆光で見えないだろうが。

 

優しい風の吹く日

教室に寄り添う柳の木を 授業で描いた。

あの木の下で鬼は泣いていたかもしれない。

もうすぐサヨナラだと言って。

やがて

新校舎が立つので老木は切り倒され

クラス替えがあり それぞれの道を目指し 

鬼は取り残されたまま 忙しく月日は過ぎた。

 

いま

分かれ道でもらった言葉を思い出す時

自分の鬼はやっぱりまだ

あの柳の木の下にいるのだと思える。

そしてその気になれば

いつでもあの老木の下で 鬼に会うことが出来るのだと思う。