空の花


 

「あぁ どうして」と思う昼は

柔らかい茶色の犬を抱きしめる

私の胸に閉じ込められても 私の気持ちを知ってか知らず

じっと小さく我慢を続ける茶色が暖かい。   

 

お前の耳のうしろは

かすかにお日様のにおいがする。

すると哀れむように お前は言う

そうだよ そんなもんだよ 人をうらやむなよ

私達は生まれた時から知ってる 自分が犬だってね。   

 

「あぁ どうして」と思う夜は

下手な指先で パソコン机の上で

ぽろんぽろん ピアノを弾くまねをする

弾ける訳の無い曲を 素晴らしく上手に引くまねをする。

それから 天井を見ながら

その辺の箸を使いお茶漬けをすする。

 

この世に生まれ、モノ思うようになってから 

自分は何が大切だったんだ?

宝箱の中 架空の花ばかり 咲き乱れる。

 

逃れたいが出来ない。

足元いちいち確認して 歩く道など

切り取って捨てたいが勇気もない。

この世では こうしたい事は そうならないのが常。

 

心の琴線がふるりと揺れる

だから大切なものは何かって

あんなに確認しておいたのに。

架空の花ばかり 咲き乱れる。