残照
― 6 ―

作:YUMICOさん


ガウリイの故郷では、放蕩息子のご帰還に沸いていた。
光の剣をめぐってのいざこざがあってからずっと故郷を離れていたガウリイを今は父親に代わって後を継いでいる兄が喜んで迎えた。
昔は幼なじみだった今は兄嫁にあたるひとも、喜んでガウリイの世話をかいがいしく焼いていた。
皆がケナに礼を言った。
ではと、門前で帰ろうとするケナを皆が引き止めた。
急がぬ旅なのだから、少し滞在していくといいという申し出を人の良いケナは断れなかった。



「ここでは隠さないでいていいのではないですか?」
ガウリイの兄嫁のグレースにケナは着替えるように進められた。
グレースには一目でケナが女性だとわかったらしい。
用意されたのは、普通のケナの年頃の女性が着るようなドレスだった。
「こんな髪でこんな服は・・・」
辞去しようとするケナの髪を梳かしてゆるく幅の広いリボンをつけるとグレースは微笑んだ。
「これでいいでしょう?」
幅の広いシルクのリボンは同色のブルーのドレスによく合った。
断りきれずにケナはそれを身につけた。

「あなたもお辛いことがあったんですね」
そう言うグレースの視線からケナは逃れ様と背を向けた。
額に残る傷跡を見ていっているのだ。
「この街には腕のいい魔法医がいます。その程度のケロイドならすぐに治るでしょう。
明日にでもいって見ませんか?」
本当にいいひとらしい。そうケナは思った。
ガウリイの家は、この街でも名家のひとつだということは門構えを見ただけで分かった。
そして、中に入って屋敷の素晴らしさをみて確信した。
調度品、掛かっている絵画、彫像、全てが贅をこらしているのにさりげない。
こういうのを品があるというのだろうと、ケナは思った。
そのさりげなさと同じように、ここにいるひとはみな優しさを誇示しない。
「前はこれでも揉めたんだぜ。時間は人を癒すんだな」
そうガウリイは憎まれ口を聞いた。

いつ何があったのかはケナには分からなかったが、今こうして帰ったことはガウリイにとってはよかったことなのかもしれないと、ケナは人々に歓迎されるガウリイを見てそう感じていた。ここまでね、そう思うともうここには用はなかった。

折角の申し出を無下にできず、ドレスを着せられたケナは一晩だけもてなしを受けることにした。

くたびれた剣士の装束から新しい衣服に着替えたガウリイはすっかり貴公子然とした気品すら感じられた。
生まれってのは存外付いて回るものだと、ケナは大仰にガウリイを見て溜息をついた。
「ケナ」
「何?」
「いや、楽しんでる?」
「着せ変えされてるのが楽しいと言えばそうよ」
「え?ケナ、今何着てるんだ?」
触ってみればと促されて、ガウリイはケナの頭から順に撫でていった。

頭には柔らかいリボン。
手触りから言うとシルクだろう。
散切り頭は少し揃えられていて、上品なショートカットになっている。
胸が少し開いたドレスは胸元がレースになっていて、袖もふくらんでいる。
手触りはこちらもシルクだろう。
そのまま足に触ると、一回ケナの肘でやられた。
スカート丈は床上10センチってところのロングスカートだな。
靴もちゃんと履き替えている。
完璧にオンナノコだな。

ガウリイは満足して見えない目をケナに向けた。
触れるときにケナが震えるのを感じて、ガウリイはリナを思い出していた。
リナもそうだった。自分が触れると体を震わせて目は自分を求めていたと。
今更思い出してもどうなるわけでもないのにと、ガウリイは頭を振った。
ケナもガウリイが何を感じているのかを推し量っていた。
誰かのことを思い出している。それは自分でない誰か。
ケナはガウリイに気付かれないように、やはり頭を振った。

その晩は、ケナを迎えてささやかな膳を皆で囲んだ。
ガウリイの兄であるゲイルは、光の剣こそ継承できなかったが、幼なじみのグレースと結婚して家督を継いで満ち足りた日を送って来たのだと弟に説明した。
いきなり剣を持って出奔した弟のことは心から心配していたのだと聞いて、ガウリイは素直に詫びた。
困ったときに頼ってくれて嬉しいともゲイルはいった。
何が原因で蟠りが出来ていたのかはケナにはわからなかったが、とにかく良い方向にむかっているということはわかるので、ほっとしていた。
そして、明日自分の目的とする町へ戻ると、夕食も終る頃ケナは皆に告げた。



今までの小屋や宿屋のベッドとは違う柔らかい寝床で、ケナは満足していた。
明日の用意も済み、もう休もうとしているときに、ドアを叩く音がした。
「本当に明日行くのか?」
驚いたことに、それはガウリイだった。




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