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「お前の姿が見てみたいな」 ガウリイはケナに言った。 あと2日でガウリイの故郷の町につくと言う晩だった。 ケナは自分の行き先の町を通りすぎたのだが、ガウリイを故郷まで送っていくと言って聞かなかった。 最近ではガウリイもケナが結構頑固モノだと分かっていて、好きなようにさせることにした。 その実、その申し出は有り難かった。 故郷の家に帰れば何とかなるだろうと、ガウリイは思っていた。 「おや、男の姿に興味があるなんて・・・」 「うるさいぞ、それ以上言うと・・・」 わざとガウリイをからかって、ケナは逃げ惑った。 今ではガウリイは目の見えないことを気にせずケナを追いかけれられるようになっていた。 勘だけで動くから尚性質が悪い。 ケナの動きを読んで先回りをされてしまうのだから、いつもケナは捕まえられていた。 「お前の髪は何色なんだ?」 「さあ・・・何色だって皆言ってた?」 ケナの姿をはっきり見たことのないガウリイは、行き合う人などにケナの外見を聞いたことがある。 返って来る答えは、茶色い髪に茶色い目で十代半ばくらいの少年だと言うことだった。 「ありふれた見かけなんてありがたくもない。俺もあんたみたいに金色の髪で蒼い目なら、もう少し女の子に声も掛けやすかったのにな。 黒い髪で緑の目でもいいな。なにせ茶色に茶色はつまらん」 それを聞いてガウリイは声を上げて笑った。 事実、目が見えない今でもガウリイは女性を惹きつけていた。 そばにいるケナが邪魔モノ扱いされるのもしょっちゅうだった。 「いい加減いやになるんだぜ。俺いつも邪魔モノでさ。ガウリイ。 さっさと結婚して身を固めたらどうだ?」 声替わりしかけのような声でケナが言う。 「ひとに俺の生涯を背負わせるわけにいかん」 「頭固いなあ」 「事実だ」 「その苦しみを共に背負ってもらう代わりに、もっと喜びを与えるとは言えないのか? 情け無い男だな」 「まあ、夜くらいは悦ばせてやれるがな」 あっさり言われてケナが絶句している。 「お子様には刺激強かったか?」 からかうガウリイに、ケナはしどろもどろになる。 「お子様って言うなよ!」 「お子様じゃないか!」 そういうとガウリイはケナを捕まえて擽り始めた。 きゃーきゃーと女の悲鳴のような声を上げてケナが逃げ惑う。 それをやはり気配で捕まえてガウリイはケナが泣くほど擽った。 わき腹から胸のあたりを擽ってふと、ガウリイは手を止めた。 「まだ治りきらないか?」 うん、とケナが頷いた。 あの火事のとき、倒れて来た柱のかけらがケナの胸を刺していた。 医者もいない小さな村だったので、相変らず旅を続けながら少しずつ治しているというのが実情だった。肩から胸にかけて痛々しい包帯がまだ巻かれている。 「痛かったか?」 「いや」 ケナはガウリイの手をどけると立ちあがった。 立ちあがりかけてうっかり自分のズボンの裾を踏んで、ケナはガウリイの腕の中へ転がってしまった。 「おいおい。男と抱き合う趣味は・・・」 いいかけてガウリイは口をつぐんだ。 もう一度、ゆっくりケナの肩に手を這わせる。 傷に触らないように背中から脇へ。そして腰から足へと滑らせたところで、ガウリイははたと、手を止めた。 「なに?」 ケナが訝しむように聞く。 「いや・・・」 それ以上はガウリイは何も言わなかった。 ガウリイが風呂へ行くと部屋を出たあと、ケナはゆっくりと胸の包帯を外した。 そこにはガウリイに言っていた傷は影も形もなかった。 その代わりにそこには、二つの柔らかい膨らみがあった。 「あ〜、熱い!!」 そういうとケナはもう一度清潔な包帯でその膨らみを否定するようにきつく抑えた。 「こんなに長い間女とばれないなんて思わなかったわ」 そういうとケナは鏡に映る自分の姿を見た。 「醜い顔。醜い傷。散切り頭。どう見たって男の子よね」 そういうとケナは伸びかかった髪を無造作にハサミでジャキジャキ切った。 寝間着に着替え終わる頃に風呂から戻って来たガウリイが、無造作にケナの頭を触った。 「お、散髪したのか?」 「うん」 「自分で?なんだ、手触り良かったのにな」 「ふんだ。触らせてくれる女のところへ行けよ」 「行けないからお前さんといるんだろ?」 思いがけぬガウリイの吐露にケナは戸惑った。 「捨てられたの?」 「うるさい」 「ごめん」 「いや。別れた」 正直に言われてケナは困ってしまった。ガウリイの昔の女の話なんて聞くつもりなかったのに。 「どんなひとだ?」 「う〜ん」 興味深々に聞かれてガウリイも困った。 話すことがありすぎる。 「一言で言えないが、凄い奴だった。人間としても、女としても。 もうあんな奴には会えないだろうな」 |