残照
― 3 ―

作:YUMICOさん


「まったくだめなの?」
「ああ」
「全然?」
そういうと、ケナはガウリイの目の前で手を振って見せた。
ガウリイの目はそれを追わない。
悲しそうにケナは溜息をついた。
「よかったね。俺が一緒で」
「ああ」
「やっと役に立てるよ」
「ああ」
「ガウリイ?」
「ああ」
「ガウリイ!!!」
上の空だったガウリイはケナの大声で我に返った。
「ああ、すまない。なんだ?ケナ」
「さっきから“ああ”しか言わないんだから・・・」
「すまない。ちょっと考えてたんだ」
「何を?」
「いや、腹減ったなあって」

顔を見合わせてゲラゲラ笑った。
二人は共に旅をするようになってからいつもこうだった。
真面目なケナに突っ込むガウリイ。
まるでリナと旅をしていたときのようだと、少し心が和むのをガウリイは感じていた。
年老いた祖父の面倒をみていただけあって、ケナは色んなことによく気が回った。
野宿してもちゃんと火も起こせたし、料理もできた。
ただ、まだ小柄なせいか体力がなく、ガウリイが一人で行動するのに比べ幾分ペースが遅くなる。
それでも、淡々とひとり周りに気を配りながら緊張して旅するよりはうんといい。
ケナは目になってくれる。
ガウリイの腕をとり、さりげなく周囲に目を配って心の準備をさせてくれる。
押しつけがましくないのが有り難い。



目が見えないと感じたのは、ゼロスとの戦いの数週間後だった。
たまたま立寄ったセイルーンで魔法医に傷を見てもらったときにそれは確信になった。
目が霞み、頭痛がすると訴えるガウリイにアメリアを始めとする皆が診察を受けた方がいいと言い張った。あんまりリナが心配するので、仕方なくガウリイは診察を受けた。
「原因はわかりません。ただ、目がやられている可能性はあります。
ですが、原因がわからないので、むやみに『回復』もかけられないのです」
セイルーンで随一といわれる魔法医の科白はガウリイを困惑させた。
その通り言うこともできず、ガウリイは風邪だったとリナに告げた。
リナはほっとして泣き出してしまったほどだ。
「もうこれ以上ガウリイを危険な目に会わせたくない。本当よ」
そう言ってリナは泣いた。
ばかだな、とガウリイはリナの髪を撫でた。

それから数ヶ月、徐々に目は霞み、色がぼやけ、あの屋敷でガウリイは自分の視界が途切れるのを感じた。
これまでだと、即座に思った。
目の見えない身では、リナの足手纏いにしかならない。
そんなことになるなら、俺は自分で自分を殺すだろう。
その前にと、ガウリイはリナから離れたのだった。



行く当てはなかった。けれど、久し振りに故郷に帰ってみるのもいいと何となく思って、ガウリイは行き先を決めた。
それがたまたまケナの行く町の少し先の町だった。
ケナは喜んでガウリイの旅の目になると申し出たのだった。

いきなり目が見えなくなったわけでなく、徐々に視力が後退したのでガウリイは少しずつ見えないことに慣れていった。
知らない道を歩くことはかなり難しいが、身の周りのことをするのはそれほど苦労しなかった。
新しいところへ来ると、まずケナがガウリイを導いて周りのものを教えてくれた。
それに慣れて来ると、ケナはガウリイに必要以上には手を出さなかった。
その距離感がガウリイには心地よかった。
リナといたときのような信頼感がケナとの間には育っていた。

育ち盛りのせいか、ケナもガウリイに負けず劣らずよく食べた。
そこがガウリイは気に入っていた。
旅費が足りなくなると、二人で仕事もした。
目が見えなくても、薪ぐらいは楽に割れたし、下手な用心棒よりは頼りになると結構重宝がられた。外見を請われてデートの相手もすることもあった。
それはそれなりに、仕事と割り切ってガウリイは楽しむことにした。
目が見えないと、相手の心がよく見える。
色んな人に接して、ガウリイはその反応を素直に楽しんでいた。

ケナはどこへ行くのかどこかでちゃっかり稼いできていた。
子守りから、店番に使い走り、いろんなことをする小器用なケナはどの街にいっても重宝がられていた。顔の傷で最初は人々は驚くのだが、人当たりの良さと、気立ての良さで、ケナはどこへ行っても可愛がられていた。
本当は魔法医にでも見せてやればあっという間にあんな傷くらいは治るのだろうけれどケナはそれをしなかった。
自分でそれだけ高額な治療費を賄えるわけもなく、そういう知り合いもいるわけでもなくそして誰かのお金でそれを叶え様と言う気もなかった。
自分のありのままを受け入れられる強さにガウリイは感心した。

ガウリイはケナとの旅を楽しんでいた。
それはリナと旅をしていた時の気持ちと少し似ていた。
今ごろリナはどこにいるのだろう?
もう、新しい相棒はみつけたのだろうか?
それとも“いいひと”でもできただろうか?
考えてどす黒い思いが沸き上がるのをガウリイは止められなかった。
今更なにができるというのだ、とガウリイは頭に浮かぶ考えを振り払った。

これからの数週間、ケナとの旅を楽しもうと、
ガウリイはもう一度自分に言い聞かせた。






2へ戻る / 貰いモノは嬉し!へ戻る