|
「ガウリイ、ガウリイ」 「なんだ、ケナ」 「違うよ。酷く魘されてたのはガウリイだよ」 そうかと、ガウリイはケナの頭をくしゃりと撫でた。 短い髪がガウリイの指に纏わりつく。 リナの髪はこんなじゃなかった。 自分の指に纏わりついた長い髪を梳くのがガウリイは好きだった。 少し癖のある柔らかい髪はリナの髪質に似ているとくしゃくしゃにしながらガウリイは思った。 その拍子に額の傷に少し触れてしまったらしい。 びくりと、ケナが震える。 「あ、すまない。傷に触ったか」 「ううん。もうほとんど痛くないから大丈夫。でもあんまり気味の良いもんじゃないだろ」 そういうと、ケナはガウリイの手をどかせようとした。 けれどガウリイは有無も言わせずケナを引寄せると、ゆっくりとその傷に触れた。 それは酷い火傷の痕だった。 髪の生え際から額全部と左の目の上に掛けて明らかに焼け爛れた痕がある。 「よく目が無事だったな」 「うん。感謝してるよ。ガウリイが助けてくれたおかげだよ」 そう言われてガウリイは照れくさそうにまた寝床に伏せった。 「何時までも言わなくて良い。あんときお前にはちゃんと礼を言ってもらった。 それに、今は俺がお前に助けてもらっている。これで五分五分だ」 「そうだね」 逆らわずにケナもまたガウリイの横に転がった。 今から一月ほど前、それはガウリイがリナと別れてから暫く過ぎた頃だった。 ガウリイは通りかかった村で火事が起こっているのを知った。 古い町で、建物はほとんどが木造の為あっという間に火が回ったらしい。 思うに任せぬ体を動かして、ガウリイは消火作業を手伝った。 あらかた村の中心部は鎮火できたと思った頃、村はずれの小屋が火に包まれているという 連絡が入った。そこには祖父を亡くした少年が一人で住んでいるという。 皆が慌てて駆けつけたときには、火は既に手がつけられないほど回っていた。 「ケナは大丈夫なのか?」 村長と思しき男性が集まっている人々に訪ねるが、誰もそのケナを見たと言うものはない。 誰にも分からなかったのだが、ガウリイには確かに人のいる気配が分かった。 だが手のつけられない火に皆尻込みをするばかりだ。 ガウリイは長い髪を束ねてシャツに押しこむと、水を頭からざぶりと被り火に飛びこんだ。 焼け落ちる寸前の小屋の中では、倒れた柱を胸受けた少年が動けずにうずくまっていた。 火で焼かれた髪は毛先が焦げ、頭には出血と酷い火傷がある。 ガウリイは少年を抱え上げると、斬妖剣をひと振いして小屋のドアを切り落とした。 そして飛び出すのと、小屋が崩れるのはほとんど同時だった。 人々の歓声に迎えられ、少年は嬉しそうにガウリイを見上げた。 けれどガウリイの目には、もうその少年の輪郭しか見えなかった。 見るのはいつもリナの夢だった。 夢の中でリナはいつもガウリイのものだった。 髪の香りをかぎ、細い手首を掴んで引寄せると白い頬が染まる。 そのしなやかな体を抱き締めると彼の腕の中でか細い体が震えた。 唇を貪るように重ねたところで、いつも夢が醒める。 どうやら今夜もその夢をみたらしい。 女の夢に魘されるとは。 ガウリイは自虐的な笑みを浮かべた。 背中にケナの気配がある。 祖父をなくし、火事で家をなくしたケナは遠い親戚のいる地方へ行くという。 もはや一人立ちできる年齢ではあるが、できるなら血縁のいる土地へと言う希望と、それがたまたまガウリイの向う方角であることから、ケナが同行したいと申し出たのだった。 リナと別れてからガウリイは急激に視力が落ちるのを感じていた。 予感は当った。 今夜は満月だ。なのにガウリイの前には漆黒の闇が広がるばかりだ。 背中に規則正しいケナの呼吸を感じる。 俺が救った命。幾多の命を散らしながら、命がけで救う命もあるのだと ガウリイは、またリナを思い浮かべていた。 |