|
ガウリイは4ヶ月前からずっとここで待っていたといった。 「まっすぐに来たの?」 「ああ」 「どこかへ行ってしまうとは思わなかった?」 「分からん。でも最後にはここに帰ってくると思った。 子供が出来ていたら尚のことな」 さらりと言われてリナは赤面した。 けれどそれはガウリイの目には映らなかった。 けれどリナの体が少し熱くなったのを感じてガウリイはまたリナを抱き寄せた。 「ごめんなさい」 リナは素直に謝った。 「ああ、大いに反省するんだな」 ガウリイも何か言ってくれるかと待っていたリナはいきなり自分を突き放したガウリイに困惑した。 「どうして騙したんだ。どうして他の女を俺に抱かせるような事をした。 あそこまですることなかったんじゃないか?」 剥き出しの怒りをぶつけられてリナもいきり立った。 「じゃああたしだったらちゃんと受け入れてた? あたしだったら追い払ったんじゃないの?」 また涙が込み上げて来た。 「そうだろうな。リナなら追い払っていた」 ガウリイは思いがけず素直に認めた。 「どれだけ苦しんだと思うんだ。 血を吐くような思いをしてお前から離れて、ようやく別の道に踏み出そうとして、お前を諦めようとして見つけたはずの相手が抱いてみたらお前だったなんて。 随分滑稽だっただろうな。俺がどんなか眺めてたんだろう?自分以外の女を抱くさまを」 辛辣な言葉がリナの心を抉った。 「分かったときに俺がどんな思いをしたか分からんだろうな」 「わかんないわよ」 「俺にお前さんが分からないと思ったのか?」 「分かったの?」 「当り前だ。だからここにいるだろ」 リナはガウリイの言いぐさにまた真っ赤になった。 「俺は結婚するつもりだったからな。だから避妊なんてしなかった。 途中でリナと分かった。それでもいいと思った。一度手放したんだ。 もう2度と手放すモノかと思った。妊娠させてもな。 それが朝目が醒めたらもう影も形もなくなっていた。いなくなってたんだ。 俺は気が狂うかと思った・・・・」 ガウリイはリナの体に手をかけたまま足元に崩れるように座りこんだ。 あのガウリイが震えている。 どんな場面でも淡々と大らかだったガウリイが自分に触れるのを躊躇って震えている。 怒りに翻弄されて追い詰められていたリナはふと、気持ちが緩むのを感じた。 身を屈めるとガウリイの頬に手を当てる。 その手を濡らすものがある。 リナは胸がいっぱいになった。 縋るようにガウリイの頭を抱き締めると、リナはただガウリイの名を呼んだ。 「傷つけるつもりなんてなかった。辛かった。置いていかれて悲しかった。 あたしはあんたの傍にいたかったのよ。それだけだったのよ。なのに・・・」 しばらくしてからぽつりとリナが言った。 「分かってる」 ガウリイが小さな声でリナの耳に囁いた。 「だからここで待っていた。待っている間にずっと考えた。 離れたのが間違いだった。でも間違いだと分かったんだから正せばいい」 「どうやって?」 ガウリイはリナを自分の膝の上に抱きかかえた。 「ケナは言った。ちゃんと話してみたかと。 俺は目が見えなくなる事をちゃんとお前に言わなかった。 言えなかった。このままの俺を受け入れてもらえる自信がなかった。 けれどお前を思う気持ちは止められない。お前の傍にいたいと思う。 こんな体でもお前を守りたいと思う。 傍にいさせてくれないか?お前ごと子供も守りたい。 その子供の父親になりたい」 真摯な言葉がリナの心を動かした。 いつもならプライドで意地っ張りな応酬に持っていくリナもきちんと自分の気持を見つめた。 「ガウリイが離れていくのが恐かった。 あたしがガウリイを自分の戦いのパートナーとしてだけ見てるんじゃないかと思われてると思ったら悲しかった。でもそうじゃない。あたしはガウリイだから好きなの。 ガウリイの子供だから産もうと思ってる。あたしも子供も守って欲しい。あたしもあんたを守る。 あたしはあんたの目になりたい。あたしはあんたの傍にいたい」 ガウリイはリナを抱き締めた。 リナはガウリイを抱き締めた。 それ以上の言葉は要らなかった。 二人はこれ以上近づけないほどぴったりと体を合わせて互いの唇を求めあった。 外は暗くなり始めて、薄黄色の月が昇り始めた。 鼻を擦り合わせてふふ、と笑うとガウリイはリナの腰を抱いて立ち上がった。 「さて、もう一仕事しないとな」 「なに?」 「お前さんの家族への釈明」 「え?4ヶ月いる間に説明済んでるんじゃないの?」 「いや、とりあえずリナを待ちたいといったらルナさんがいいといったぞ」 「えええええっ!!どうするのよ。この状態で」 「説明は任せた」 「あんたあたしを守ってくれるんじゃないの?」 「お前さんも俺を守るっていったじゃないか?」 二人は顔を見合わせてゲラゲラ笑った。 手を繋いで店を出たところで、ルナに押さえこまれた父と母が顔を赤らめているのを見てリナはガウリイの腕に倒れこんだ。 今晩は二人ともそうとう搾られるのだろうと、覚悟した。 もう高くなった月が皆の顔を照らした。 その光はガウリイの目に届く事はなかったが、 同じくらい暖かく明るい光が、ガウリイの心を満たした。 もうその光を離すことはない、とガウリイは思った。 |