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「もうここでいいわ。ありがとう。アメリアによろしくね」
そういうとリナは町の城門付近で馬車を降りた。 セイルーン王室の紋章が入った立派な馬車で実家に乗り付けるのは気が咎めたからだ。 顔の火傷の傷がすっかり治ってから悪阻が収まるまで4ヶ月ほどリナはセイルーンに滞在した。 それからアメリアがしつこく言うので6頭立ての立派な馬車でゼフィーリアまで送ってもらったのだ。 目立たなかったお腹も、少し丸みを帯びたように見えるようになった。 誰にも何も言ってなかった。 自分のこの姿を見たら、ルナはなんというだろう。 リナは少し竦みあがった。 けれど事実は事実。変えようもない。 今は一人じゃない。誰よりも強い味方がここにいる。 リナはお腹をなでながら、にっこりと笑った。 町の中心部を抜けると、顔見知りに出会う。 みんな久し振りに会うリナが分からないらしくて気にも留めない。 そう言えば、顔を焼いてしまったせいで、額のほくろがなくなった。 ああいうものは、魔法では元に戻らないらしい。 髪はあれから少し伸びて、肩につくくらいになっている。 癖のある髪が容赦なく色んな方向に飛び跳ねるのを、リナは毎朝結構苦労して収めている。 夕日が影をおとす。 ふと横を見ると、まるで知らない人のようなシルエットが自分にくっついている。 リナは苦笑した。 この半年ほどで、自分は随分変わったような気がする。 ガウリイはあれからどうしたんだろう? ケナを探しただろうか? それともあれは勢いだったと諦めただろうか? 故郷でもガウリイは随分モテていた。 その中の誰かともう結婚しただろうか? 見える見えないは関係ない。 ガウリイはガウリイだ。 きっと纏わりつく女が後を断たないだろう。 そう考えてみて、リナははっとした。 ガウリイはガウリイだ。 なんでそんなことに気がつかなかったんだろう。 あたしはガウリイが超一流の剣士だから好きになったんじゃない。 ガウリイがハンサムだから好きになったんじゃない。 ガウリイがガウリイだから好きだったのに。 あたしはひとことでもそれをガウリイに伝える事をしたのだろうか? もし伝えていたら、彼はあたしから去らなかったんじゃあないだろうか? 後悔の涙がリナの頬を伝った。 影が少し長くなる頃、リナは頬をぐいと拭った。 ほぼ4年振りの我家だった。 ふらりと店に入ると、夕方の掻き入れどきも過ぎて、誰も店内にいなかった。 なんだ、と裏に回ろうとしてゆらりと奥で人影が立ち上がるのがわかった。 「父ちゃん?」 と呼びかけようとして、リナは足が固まったように動けなくなった。 父ちゃんよりも大きな影は手を差し伸べるようにしてゆっくりと自分に近づいてくる。 まるで何かに憑かれたような表情でゆっくりとその男は自分を抱き寄せた。 懐かしい香りに包まれて、 リナは息ができなくなった。 何も言えない。何て言っていいか、分からない。 それを感じたのか、男は静かに告げた。 「お帰り、リナ」 頬を涙がまた伝う。 「ガウリイ」 リナが言うべき言葉は他にはなかった。 |