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フランシスは、妻をロンドンに残して、ドーヴァー海峡沿岸にやってきた。 自ら命を絶った、ナージャの鎮魂のために。 彼女が飛び降りたであろう、切り立った険しい崖に、花を手向ける。 (ナージャ、僕の前から姿を消すなんてひどいよ・・さよならも言わず、突然いなくなるなんて・・) 心から愛していた人。 だが、その人はもういない。 フランシスは、ナージャを失った深い喪失感に、いまだ立ち直れずにいた。 喪失感は、フランシスの生のある限り続くだろう。 フランシスは、漁村に立ち寄った。 忙しく時間が流れるロンドンとは違い、潮風や波の匂いが漂い、穏やかに時が流れる漁村。 休暇を取って、ここに滞在しよう。 フランシスは、このごろストレスに押しつぶされそうだった。 ハーコート財閥の嫡子としての重責、メリーアンとの仕組まれた結婚、そして跡継ぎの催促・・ 何もかもうんざりだった。 フランシスには、メリーアンの妊娠が自分を手に入れるための嘘であることがわかっていた。 さまざまな思いを巡らせて村を歩いていると、フランシスは1組のカップルを見た。 男の方は、フランシスの双子の兄・キースであった。そして女の方は・・ フランシスは自分の目を疑った。 それは、死んだはずのナージャだった。 (どうして、ナージャは、死んだはず・・) だが、現にナージャは自分の目の前にいる。 「ナージャ!!」 フランシスは心の限り叫んで、ナージャを抱きしめた。 Novel&Message by 千菊丸さん |