百合と薔薇

第29話:危機一髪


作:千菊丸さん
ルドルフは、とっさに注射器を引き出しの中に戻した。
「リア、こんなところにいたの。」
そう言ってドアを開けたのは、ルドルフの先輩格にあたる陰間・ヒルトだった。
「すいません・・身体の調子が悪くて・・」
「そう。ここで休みな。食事は出来たら運んであげるからさ。」
薄茶の髪をうっとおしそうに払いながら、ヒルトはそう言って部屋を出た。
ルドルフは再び注射器を手に取った。
「麻薬か・・」
ルドルフの読み通り、この売春宿は麻薬と深い繋がりがあるようだった。
ルドルフは着物の懐にカバーをつけた注射器を隠し、ベッドに寝た。

夜になると、歓楽街は活気づいた。
『柊』でも、客が次々とやってくる。
ルドルフは客を探るため、宴会へと出た。
「身体、少しは良くなったんだね。」
ヒルトはそう言ってルドルフに微笑んだ。
ヒルトの隣に、均整のとれた身体をした、20〜30代と思われる男性がいた。
「ヒルト、その子見ない顔だな。」
「旦那、この子はリアっていって、4日前入ったばかりの新人なんですよ。」
ルドルフはその男に見覚えがあった。
アルト・ベリッツィーニ。
ハプスブルク財閥の傘下であるイタリア屈指の貿易会社・ベリッツィーニ商会の社長だ。
「・・どこかで見たような顔だな。」
アルトはそう言ってルドルフの顔をまじまじと見た。
「気のせいですわ。」
ルドルフはさりげなくかわし、ヒルトの隣に座った。
「旦那、しばらくで。」
女将が上機嫌に部屋に入ってきて言った。
「女将、今夜の相手はその子がいいんだが。」
そう言うとアルトはルドルフを指した。
ルドルフは冷や汗をかいた。
もしここでハプスブルク財閥の社長であることがバレたら、ただではすまされない。

宴会が終わり、女将はルドルフを手招きした。
「アルト様はうちのお得意さまだよ。粗相をしでかしたらただじゃおかないよ。」
アルトと入った部屋は、天蓋付きのベッドがあり、ソファとテーブルがあるロココ装飾を施した豪華な部屋だった。
アルトはソファに座りながら、ルドルフの方を見て笑った。
「あなたがこんなところにいるなんて・・思ってもみませんでしたよ、ルドルフ社長。」
「いつ、私だとわかった?」
「宴会で、あなたが部屋に入ってこられた時からですよ。社員が変死を遂げ、その謎を解き明かそうとするのは、あなたがしそうなことだ」
そう言うとアルトはルドルフを抱きしめた。
「私を満足させてくれるんでしょうね?」
アルトは着物の裾を割り、ルドルフの太股を愛撫した。
「汚らわしい手で触るな。」
ルドルフはアルトの手を払いのけた。
「私はずっとあなたをお慕いしていました。ここがどこであるかわかっているのでしょう?」
「私は、男色の趣味はない。」
「じゃぁ、あの使用人との関係はどうなのです?」
群青色の瞳をいたずらに光らせながら、アルトは言った。
ルドルフは部屋を出ようとした。
だが、その腕をアルトが掴んだ。
「逃がしません。」









あらら、ルドルフ様が大変なことに。
次回はナージャとフランシスの関係に亀裂が。そしてメリーアンがナージャの前に・・。

Novel&Message by 千菊丸さん


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