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ルドルフは、とっさに注射器を引き出しの中に戻した。 「リア、こんなところにいたの。」 そう言ってドアを開けたのは、ルドルフの先輩格にあたる陰間・ヒルトだった。 「すいません・・身体の調子が悪くて・・」 「そう。ここで休みな。食事は出来たら運んであげるからさ。」 薄茶の髪をうっとおしそうに払いながら、ヒルトはそう言って部屋を出た。 ルドルフは再び注射器を手に取った。 「麻薬か・・」 ルドルフの読み通り、この売春宿は麻薬と深い繋がりがあるようだった。 ルドルフは着物の懐にカバーをつけた注射器を隠し、ベッドに寝た。 夜になると、歓楽街は活気づいた。 『柊』でも、客が次々とやってくる。 ルドルフは客を探るため、宴会へと出た。 「身体、少しは良くなったんだね。」 ヒルトはそう言ってルドルフに微笑んだ。 ヒルトの隣に、均整のとれた身体をした、20〜30代と思われる男性がいた。 「ヒルト、その子見ない顔だな。」 「旦那、この子はリアっていって、4日前入ったばかりの新人なんですよ。」 ルドルフはその男に見覚えがあった。 アルト・ベリッツィーニ。 ハプスブルク財閥の傘下であるイタリア屈指の貿易会社・ベリッツィーニ商会の社長だ。 「・・どこかで見たような顔だな。」 アルトはそう言ってルドルフの顔をまじまじと見た。 「気のせいですわ。」 ルドルフはさりげなくかわし、ヒルトの隣に座った。 「旦那、しばらくで。」 女将が上機嫌に部屋に入ってきて言った。 「女将、今夜の相手はその子がいいんだが。」 そう言うとアルトはルドルフを指した。 ルドルフは冷や汗をかいた。 もしここでハプスブルク財閥の社長であることがバレたら、ただではすまされない。 宴会が終わり、女将はルドルフを手招きした。 「アルト様はうちのお得意さまだよ。粗相をしでかしたらただじゃおかないよ。」 アルトと入った部屋は、天蓋付きのベッドがあり、ソファとテーブルがあるロココ装飾を施した豪華な部屋だった。 アルトはソファに座りながら、ルドルフの方を見て笑った。 「あなたがこんなところにいるなんて・・思ってもみませんでしたよ、ルドルフ社長。」 「いつ、私だとわかった?」 「宴会で、あなたが部屋に入ってこられた時からですよ。社員が変死を遂げ、その謎を解き明かそうとするのは、あなたがしそうなことだ」 そう言うとアルトはルドルフを抱きしめた。 「私を満足させてくれるんでしょうね?」 アルトは着物の裾を割り、ルドルフの太股を愛撫した。 「汚らわしい手で触るな。」 ルドルフはアルトの手を払いのけた。 「私はずっとあなたをお慕いしていました。ここがどこであるかわかっているのでしょう?」 「私は、男色の趣味はない。」 「じゃぁ、あの使用人との関係はどうなのです?」 群青色の瞳をいたずらに光らせながら、アルトは言った。 ルドルフは部屋を出ようとした。 だが、その腕をアルトが掴んだ。 「逃がしません。」 あらら、ルドルフ様が大変なことに。 次回はナージャとフランシスの関係に亀裂が。そしてメリーアンがナージャの前に・・。 Novel&Message by 千菊丸さん |