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ナージャは、フランシスと引き裂かれ、泣き暮らす日々を送っていた。 食事も喉を通らず、日に日にナージャは弱っていった。 悲嘆にくれるナージャとは対照的に、彼女の恋敵であるメリーアンはいきいきと毎日を過ごしていた。 フランシスとナージャが別れた今、自分がフランシス・ハーコートの妻となる日は近い。 「やっと、幼い頃からの夢が叶うのだわ・・。」 一方、目障りな存在がいなくなり、シュティファニーは毎日夫に嘘を吹き込んでいた。 その内容は、夫の恋人であった、アルフレートのこと。 「アルフレートは、あなたとはもうこれ以上やってはいけない、とおっしゃいましたわ。」 「アルフレートは、あなたのことはもう忘れてしまったとおっしゃっていたわ。」 夫に恋人への憎しみを植え付けるシュティファニー。 この世でかけがえのないものを失ったルドルフは、その悲しみを憎しみへと変えていった。 メリーアンとシュティファニー。 2人の悪女が出会ったのは、ウィーンの高級ホテル。 ある夜、ハプスブルク財閥創立120周年のパーティーが開かれた。 オーストリアのみならず、ヨーロッパ中の貴族がハプスブルク財閥の未来を祝いに来た。 シュティファニーは社長夫人として鼻高々だった。 シュティファニーは、夫と話したかったが、縁談が決まった時からシュティファニーを嫌っていたルドルフは、従兄弟や友人達と話していて、彼女のことなどかまいもしなかった。 高慢な性格のシュティファニーは、ヨーロッパの社交界から嫌われていた。 ブリュッセルから嫁いできて4年、彼女には親しい友人が1人もいなかった。 華やかなパーティー会場が地獄のように見える。 帰ろうかと、入口に向かったとき、スタイルのいい美女が目に入った。 美女と目が合うと、彼女は微笑みを浮かべてシュティファニーの方に歩いてきた。 「シュティファニー様かしら?はじめまして、わたくしはメリーアン・ハミルトンともうしますわ。」 「あら、ファッションモデルの。わたし、あなたが出ているショーは必ず見ていますのよ。」 シュティファニーは初めて会話らしいものができた。 「ここではなんですから、静かなところでお話しませんこと?」 「ええ、よろしくてよ。」 シュティファニーはチラッと夫の方を見た。ルドルフは相変わらず談笑している。 ホテルの中にあるアール・デコ様式のインテリアのカフェで、メリーアンとシュティファニーはにこやかに談笑していた。 「ねぇ、ご存知?ハーコート財閥のご子息と、プレミンジャー財閥の孫娘の縁談が、なしになったっていうお話。」 突然メリーアンがそう言ってシュティファニーに話を振ってきた。 「ええ、週刊誌で読みましたわ。プレミンジャー財閥の孫娘、そうとう曲者らしいですわね。なんでも、たくさんの男を手玉に取ったとか・・・」 「その子は私の幼なじみまでたぶらかしたのですわ。」 メリーアンの声は、怒りに満ちていた。 「私はその方とは幼い頃から知っておりましたわ。私はその方と結婚したいと思っておりますのよ・・それなのに、あの泥棒猫・ナージャが、私のフランシスを横取りしたんですわ!」 ナージャ、という名前を聞いて、シュティファニーの脳裏にある光景が甦った。 4年前、ブリュッセルで公演している旅芸人の踊り子を罵倒した後、その踊り子に逆に罵られ、平手を打たれたのだ。 「ナージャ・・あの小娘が貴族ですって・・」 シュティファニーのつぶやきに、にやりとほくそ笑むメリーアン。 「あなたもナージャのことを知っていらっしゃるのね?」 「ええ、私に平手を打った生意気な小娘を忘れるわけがなくてよ。」 シュティファニーはそう言ってカップを乱暴に置いた。 (この女、利用できるわ。) メリーアンは最高のカモを見つけた。 最大限に利用できる人間を。 心の内を悟られまいと、シュティファニーに向けて見せかけの笑顔を浮かべる。 「ねぇ、私達手を組まないこと?ナージャを殺すために。」 シュティファニーは一瞬戸惑ったが、あの平手の音と痛さを思い出した。 「ええ。」 しめたわ。 「そう、じゃぁ、今から考えましょうか?」 性悪女と、陰謀女。 2人の悪女の陰謀が、幕を開けた−。 とうとうメリーアン(陰謀女)とシュティファニー(性悪女)が出会ってしまいました。 メリーアンはひどい女ですが、シュティファニーは最低で、ひどい女です。 メリーアンはシュティファニーをとことん利用し尽くして捨てそうです。 次回、フランシスに引き裂かれ、悲しみに暮れたナージャの元に、キースの魔手が迫ります。 ヒロインに幸せな日々が訪れるのは、まだまだ遠いようです。 Novel&Message by 千菊丸さん |