百合と薔薇

第25話:夢への道


作:千菊丸さん
2004年2月。
あの事故から4年、懸命のリハビリによってアルフレートは全快し、退院した。
だが、ハプスブルク邸にはいまさら戻れず、それに彼はルドルフに関する記憶を一部、失っていた。
ルドルフと相思相愛の仲となる時から、あの事故の時までの記憶を。
心の隅に、誰かの影がかすむことがある。
金髪の、蒼い瞳をした。
自分を慈しむような目で自分を見ている。
それが誰なのかわからない。

アルフレートはウィーンの街をなすすべもなく彷徨っていた。
(私は一体、どうすればいいのだろう・・)
その時、アルフレートの前にからくり自動車が走ってきた。
とっさに彼は自動車をよけた。
「危ないだろう!」
「すいません・・」
平謝りするアルフレートを、大男はじっと見つめた。
「あんた、どっかで見たことあるな。」
「えっ・・」
大男は何かを思い出すかのように首をひねった。
「確か・・前に公演したときに、ナージャが・・」
(ナージャ)
4年前、パリで出会った少女。
「ああ、思い出した!あんた、ナージャの命の恩人だろ!」
突然大声を出した大男は、アルフレートの肩を揺さぶった。
「ナージャから聞いたよ。あんた、ハプスブルク邸で働いているアルフレート=フェリックスさんだろ?ナージャが貰ったメモでわかったよ。」
そう言うと、大男はアルフレートに有無を言わさず、自動車の中へと入っていった。
「団長、その人は?」
「ああ、この人はナージャの命の恩人で、ハプスブルク邸で働いているアルフレート=フェリックスさんだよ。」
「ああ、パリでナージャを助けた人だろ。」
そう言うと、東洋人の少年が右手を差し伸べた。
「はじめまして。俺、ミツルギ=ケンノスケ。ナージャを助けてくれてありがとう。」
「アルフレート=フェリックスです。どうぞよろしく。」
そう言うとアルフレートは微笑んだ。
「これからハプスブルク邸に戻るの?」
「いいえ・・ハプスブルク邸には、戻れません・・」
アルフレートは表情を曇らせながら、言った。
「どうして?」
「4年前、事故に遭って・・それから、色々あって・・」
「そうか・・」
アルフレートとケンノスケの話を傍で聞いていた団長は、静かに言った。
「ここにいな。戻る場所がないんなら、うちで働いてみないか?」
「えっ」
「お前さんは、何が得意だ?」
「私は・・服を縫うことと、お料理しか・・」
「そりゃぁ、助かる。」
そう言うと団長は微笑んだ。
「うちには今、家事をする奴が何かと忙しくてな。あんたにいてくれると、助かるんだが。」
アルフレートは迷った。
ハプスブルク邸に戻って、失われた記憶を取り戻そうか、それとも、団長の下で働くか。
アルフレートは前者を選ぼうとした。
だが、1人の女の顔が浮かび上がった。
嫉妬と憎しみによって、醜く歪んだ顔。
恐怖で背中に、悪寒が走った。
自分に残された道は・・
「ここで、働かせてください。」
「決まりだな!」
こうして、アルフレートはダンデライオン一座の衣装係兼サポーターとして働くようになった。
ルドルフに愛された記憶を失い、ハプスブルク邸で父が彼の帰りを待ち続けているとは知らずに・・。

アルフレートがダンデライオン一座の衣装係として働き始めてから2ヶ月。
公演が終わった後、アルフレートは木漏れ日の日差しを浴びながら、デザイン画を描いていた。
そこへ、1人の紳士がやって来た。
「素敵なデザイン画だね。君が描いたのかい?」
「はい。」
「そうか・・」
数日後、男は名刺をアルフレートに見せた。
「僕はティエリ。パリでブティックを経営してるんだ。どうだい、うちに来ないかい?」
ティエリは世界で高名なデザイナーの1人であり、パリにブティックを持っていた。
「私のようなものが、いいのでしょうか・・?」
「君の才能は、腐らせておくにはもったいないよ!僕の店で腕を思う存分磨けばいい!」
アルフレートはパリへ向かう前、ダンデライオン一座に別れを告げた。
「アルフレート、立派なデザイナーとなってまた俺達に会いに来てくれよ!」
「応援してるよ!」
「皆様、ありがとうございます。短い間でしたが、みなさんのご恩は決して忘れません。」
アルフレートはそう言って一座の皆に頭を下げると、ティエリが待つ車へと向かった。
ティエリの元で働くこととなったアルフレートは、デザイナーの基礎を徐々に固めていった。
アルフレートは、着実にデザイナーへの道を歩んでいった。









アルフレート、ルドルフ様に関する記憶を失ってウィーンの街を彷徨うも、ダンデライオン一座の衣装係となり、ティエリが経営するパリのブティックで、着実にデザイナーへの道を歩んでいきます。
アルフレートの亡くなった母親はファッションデザイナーとして活躍していた時期があり、母親の背中を見て育ったアルフレートは、母のようなデザイナーとなりたいと夢を抱き始めるという設定に致しました。
デザイナーとして着実に歩んでゆくアルフレートですが、それが失われた記憶を取り戻すきっかけとなろうとは・・。
次回、メリーアンとシュティファニーが初めて顔を合わせます。
性悪女と陰謀女。
2大悪女が手を組んだら・・身の毛がよだちます。

Novel&Message by 千菊丸さん


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