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2004年2月。 あの事故から4年、懸命のリハビリによってアルフレートは全快し、退院した。 だが、ハプスブルク邸にはいまさら戻れず、それに彼はルドルフに関する記憶を一部、失っていた。 ルドルフと相思相愛の仲となる時から、あの事故の時までの記憶を。 心の隅に、誰かの影がかすむことがある。 金髪の、蒼い瞳をした。 自分を慈しむような目で自分を見ている。 それが誰なのかわからない。 アルフレートはウィーンの街をなすすべもなく彷徨っていた。 (私は一体、どうすればいいのだろう・・) その時、アルフレートの前にからくり自動車が走ってきた。 とっさに彼は自動車をよけた。 「危ないだろう!」 「すいません・・」 平謝りするアルフレートを、大男はじっと見つめた。 「あんた、どっかで見たことあるな。」 「えっ・・」 大男は何かを思い出すかのように首をひねった。 「確か・・前に公演したときに、ナージャが・・」 (ナージャ) 4年前、パリで出会った少女。 「ああ、思い出した!あんた、ナージャの命の恩人だろ!」 突然大声を出した大男は、アルフレートの肩を揺さぶった。 「ナージャから聞いたよ。あんた、ハプスブルク邸で働いているアルフレート=フェリックスさんだろ?ナージャが貰ったメモでわかったよ。」 そう言うと、大男はアルフレートに有無を言わさず、自動車の中へと入っていった。 「団長、その人は?」 「ああ、この人はナージャの命の恩人で、ハプスブルク邸で働いているアルフレート=フェリックスさんだよ。」 「ああ、パリでナージャを助けた人だろ。」 そう言うと、東洋人の少年が右手を差し伸べた。 「はじめまして。俺、ミツルギ=ケンノスケ。ナージャを助けてくれてありがとう。」 「アルフレート=フェリックスです。どうぞよろしく。」 そう言うとアルフレートは微笑んだ。 「これからハプスブルク邸に戻るの?」 「いいえ・・ハプスブルク邸には、戻れません・・」 アルフレートは表情を曇らせながら、言った。 「どうして?」 「4年前、事故に遭って・・それから、色々あって・・」 「そうか・・」 アルフレートとケンノスケの話を傍で聞いていた団長は、静かに言った。 「ここにいな。戻る場所がないんなら、うちで働いてみないか?」 「えっ」 「お前さんは、何が得意だ?」 「私は・・服を縫うことと、お料理しか・・」 「そりゃぁ、助かる。」 そう言うと団長は微笑んだ。 「うちには今、家事をする奴が何かと忙しくてな。あんたにいてくれると、助かるんだが。」 アルフレートは迷った。 ハプスブルク邸に戻って、失われた記憶を取り戻そうか、それとも、団長の下で働くか。 アルフレートは前者を選ぼうとした。 だが、1人の女の顔が浮かび上がった。 嫉妬と憎しみによって、醜く歪んだ顔。 恐怖で背中に、悪寒が走った。 自分に残された道は・・ 「ここで、働かせてください。」 「決まりだな!」 こうして、アルフレートはダンデライオン一座の衣装係兼サポーターとして働くようになった。 ルドルフに愛された記憶を失い、ハプスブルク邸で父が彼の帰りを待ち続けているとは知らずに・・。 アルフレートがダンデライオン一座の衣装係として働き始めてから2ヶ月。 公演が終わった後、アルフレートは木漏れ日の日差しを浴びながら、デザイン画を描いていた。 そこへ、1人の紳士がやって来た。 「素敵なデザイン画だね。君が描いたのかい?」 「はい。」 「そうか・・」 数日後、男は名刺をアルフレートに見せた。 「僕はティエリ。パリでブティックを経営してるんだ。どうだい、うちに来ないかい?」 ティエリは世界で高名なデザイナーの1人であり、パリにブティックを持っていた。 「私のようなものが、いいのでしょうか・・?」 「君の才能は、腐らせておくにはもったいないよ!僕の店で腕を思う存分磨けばいい!」 アルフレートはパリへ向かう前、ダンデライオン一座に別れを告げた。 「アルフレート、立派なデザイナーとなってまた俺達に会いに来てくれよ!」 「応援してるよ!」 「皆様、ありがとうございます。短い間でしたが、みなさんのご恩は決して忘れません。」 アルフレートはそう言って一座の皆に頭を下げると、ティエリが待つ車へと向かった。 ティエリの元で働くこととなったアルフレートは、デザイナーの基礎を徐々に固めていった。 アルフレートは、着実にデザイナーへの道を歩んでいった。 アルフレート、ルドルフ様に関する記憶を失ってウィーンの街を彷徨うも、ダンデライオン一座の衣装係となり、ティエリが経営するパリのブティックで、着実にデザイナーへの道を歩んでいきます。 アルフレートの亡くなった母親はファッションデザイナーとして活躍していた時期があり、母親の背中を見て育ったアルフレートは、母のようなデザイナーとなりたいと夢を抱き始めるという設定に致しました。 デザイナーとして着実に歩んでゆくアルフレートですが、それが失われた記憶を取り戻すきっかけとなろうとは・・。 次回、メリーアンとシュティファニーが初めて顔を合わせます。 性悪女と陰謀女。 2大悪女が手を組んだら・・身の毛がよだちます。 Novel&Message by 千菊丸さん |