百合と薔薇

第24話:嵐


作:千菊丸さん
メリーアンは、ミラノのホテルのロビーで、新聞を読んでいた。
そこには、幸せそうなフランシスとナージャが映っていた。
記事には、『ハミルトン財閥の子息、プレミンジャー公爵の孫娘・ナージャ嬢と婚約』とあった。
読み進むうちにメリーアンの瞳にはナージャに対する激しい憎しみが宿っていった。
メリーアンは新聞を引き裂いた。
「破滅させてやる・・」
すぐさま、メリーアンはウィーンへと飛んだ。
「兄さん、ナージャと何をしているんだ?!」
フランシスは、目の前の光景が信じられなかった。
「俺はナージャが好きだ。」
兄の言葉に、フランシスは後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「何言って・・彼女は僕の婚約者だよ・・本気で言ってるの?!」
「本気さ。」
そう言うとキースはナージャの唇に自らの唇を重ねた。
ナージャの平手打ちが、キースの頬に炸裂した。
「私が愛しているのはフランシスだけよ!あなたなんか、大嫌い!!」
ナージャはそう言うと、フランシスの背後へと駆けた。
「そうかな?」
赤く腫れた頬をさすりながら、キースは薄笑いを浮かべた。
「フランシス、お前からナージャを奪ってみせる・・どんな手を使ってでも・・」
キースは茂みの向こうへと消えていった。
ホテルを去り、キースはフランシスの顔を思い出した。
自分の想いを告白したときの、双子の弟の顔を。
「・・バカは扱いやすいな・・」
そう言って角を曲がろうとしたとき、キースは人とぶつかった。
「きゃあっ」
「すいません。」
「いいえ・・」
顔を上げた女性が、見覚えがある顔だと知った。
「メリーアンだよね?」
そう言うと、女性は微笑んだ。
「キース、お久しぶりね。」
「ああ。お前ミラノにいたんだろ?どうしてウィーンなんかに・・もしかして、フランシスに会いに?」
キースの言葉にメリーアンは身体を震わせた。
「あいつなら会っても無駄さ。フィアンセとのろけてるよ。」
メリーアンの顔が醜く歪んでいる。
「ナージャ・・あの疫病神!!わたくしはフランシスの妻になりたいって、幼いころから思っていたのよ。なのに、あの子がフランシスを奪っていった。憎らしいわ、あの泥棒猫!!それに、私を捨てたフランシス!!2人とも破滅させてやるんだから!!」
女の感情の吐露を、キースは黙って聞いていた。
「なぁ、俺と手を組まないか?」
うつむいていたメリーアンが、顔を上げた。
「どういう風のふきまわしかしら?」
キースはタバコを吸った。
「俺はナージャが好きさ。でも弟はナージャを離さない。俺はなんとかナージャを弟から奪いたい。メリーアン、お前はフランシスが欲しいんだろ?俺はナージャが欲しい。つまり、フランシスが欲しいお前とナージャが欲しい俺・・利害関係が一致するだろ?」
メリーアンはタバコを吸い、しばらく考えていたが、突然甲高い声で笑い始めた。
「気に入ったわ。わたくし、あなたと手を組んでもよくってよ、キース。」
「決まりだな。」
キースはそう言うと右手を差し出した。
「よろしく。」
メリーアンは、キースの手を握った。
「ナージャを破滅させてみせる・・」
そう言うと、メリーアンはかべちょろを掴んだ。
「粉々に叩きつぶして、心も身体もボロボロにしてやるの!フランシスに愛されるのはわたくしなんだから!!」
彼女の手の中でかべちょろは、生命を終えた。

2004年、2月。
キースがフランシスからナージャを奪ってみせると宣戦布告した日から4年。
フランシスとナージャの愛は日に日に深まっていった。
ナージャは高校を卒業したらフランシスと結婚することになっている。
式場の手配、招待客リストの作成、招待状の作成、ドレスの試着・・幸せ一杯の2人は忙しかった。
「高校を卒業したら、あなたと一緒になれるのね、フランシス!」
「待ち遠しいよ、ナージャ。君と早く結婚したい!」
ナージャは母・コレットと再会した後、ダンデライオン一座の踊り子として世界中をまわりながらも、高校に通う日々だ。
1年前、踊り子を休業したナージャは、フランシスのいるロンドンの高校に通い、ハーコート家で暮らしていた。
ナージャとフランシスは結婚を控え、幸せな日々を過ごしていた。
だが、メリーアンがそんな2人を黙って見ているはずがなかった。
メリーアンは記者にナージャの情報をリークし、でっちあげの記事を書かせた。
『ハーコート財閥子息を骨抜きにした魔性の女・ナージャ! 華麗なる恋愛遍歴』
記事に書かれていることは、ナージャには全く身に覚えのないことだった。
ナージャとフランシスがお茶を楽しんでいたとき、この記事を見たナージャの祖父・プレミンジャー公爵と、母・コレットがロンドンにやって来た。
「ナージャ、この馬鹿者が!!」
プレミンジャー公爵はそう言うと、出会い頭にナージャの頬を打った。
「お父様、おやめになって!」
「どういうつもりだ、お前は!プレミンジャーの名を汚すつもりか!」
怒りにまかせて孫娘の頬を撲つプレミンジャー公爵を、コレットが必死に止めた。
「ハーコート伯爵、申し訳ありません。そちらにご迷惑をおかけしてしまって。」
「いいえ・・」
そう言ったハーコート伯爵は、ナージャと目が合った瞬間、彼女を侮蔑の目で見ていた。
「このようなことがあった以上、ナージャをそちらに置いてゆくことはできません。今日こちらに参りましたのは、ナージャをウィーンへと連れ戻すために来ました。」
「お祖父様、嫌!フランシスと離れるなんて嫌よ!」
「黙れ、ナージャ!お前は自分のしたことが恥ずかしいと思わんのか!」
「あの記事に書いてあることは嘘よ!私はなんにもしてない!信じてよ、お祖父様!」
ナージャが必死に訴えても、プレミンジャー公爵は耳を貸そうとしない。
「お父様、いきなりナージャをウィーンに連れ戻すなんて、あんまりですわ。お父様、ナージャの結婚を喜んでいらしたじゃありませんか。」
コレットは無理矢理ウィーンに連れ戻そうとする父に訴えた。
「・・この結婚は、なかったことにする・・」
祖父の言葉が鉛のようにナージャの胸を押しつぶした。
「ハーコート伯爵、よろしいですな?」
突然の事態にハーコート伯爵は動揺したが、
「仕方ありませんな・・」
そう言ってうなだれた。
「お父様、僕はナージャと結婚したいんだ!ナージャ以外の人となんか結婚できない!!」
「黙れ、フランシス!お前は自ら火の粉を被るつもりか!」
「行くぞ、ナージャ。」
プレミンジャー公爵は有無を言わさずナージャの肩をむんずと掴んだ。
「嫌よ、離して!」
ナージャは振りほどこうとしたが、鷲の鉤爪のような頑健な祖父の手はびくともしなかった。
「フランシス!」
「ナージャ!」
フランシスはナージャに駆け寄ろうとしたが、ハーコート伯爵がフランシスを止めた。
「お父様、離してください!」
「駄目だ!」
ナージャの姿が、次第に遠ざかろうとしている。
「フランシス!」
「ナージャ!」
フランシスとナージャは、メリーアンの陰謀によって、無惨にも引き裂かれた。
作戦が成功した後、メリーアンは自宅の浴室で勝利の酒に酔っていた。
「やったわ!これでフランシスはわたくしのもの・・。」









ナージャとフランシス、幸せの絶頂にいた2人があっというまに無惨にも引き裂かれる。
そしてそれはメリーアンの陰謀だった。
恐い女だ、メリーアン・・。
これからフランシスとナージャは再会するのですが、それがまた新たな波乱を呼ぶことになります。
次回はアルフレートとダンデライオン一座の出会いを書きたいと思います。

2つの物語のキャラを織り交ぜて小説を書くのは難しいです・・。

Novel&Message by 千菊丸さん


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