|
メリーアンは、ミラノのホテルのロビーで、新聞を読んでいた。 そこには、幸せそうなフランシスとナージャが映っていた。 記事には、『ハミルトン財閥の子息、プレミンジャー公爵の孫娘・ナージャ嬢と婚約』とあった。 読み進むうちにメリーアンの瞳にはナージャに対する激しい憎しみが宿っていった。 メリーアンは新聞を引き裂いた。 「破滅させてやる・・」 すぐさま、メリーアンはウィーンへと飛んだ。 「兄さん、ナージャと何をしているんだ?!」 フランシスは、目の前の光景が信じられなかった。 「俺はナージャが好きだ。」 兄の言葉に、フランシスは後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。 「何言って・・彼女は僕の婚約者だよ・・本気で言ってるの?!」 「本気さ。」 そう言うとキースはナージャの唇に自らの唇を重ねた。 ナージャの平手打ちが、キースの頬に炸裂した。 「私が愛しているのはフランシスだけよ!あなたなんか、大嫌い!!」 ナージャはそう言うと、フランシスの背後へと駆けた。 「そうかな?」 赤く腫れた頬をさすりながら、キースは薄笑いを浮かべた。 「フランシス、お前からナージャを奪ってみせる・・どんな手を使ってでも・・」 キースは茂みの向こうへと消えていった。 ホテルを去り、キースはフランシスの顔を思い出した。 自分の想いを告白したときの、双子の弟の顔を。 「・・バカは扱いやすいな・・」 そう言って角を曲がろうとしたとき、キースは人とぶつかった。 「きゃあっ」 「すいません。」 「いいえ・・」 顔を上げた女性が、見覚えがある顔だと知った。 「メリーアンだよね?」 そう言うと、女性は微笑んだ。 「キース、お久しぶりね。」 「ああ。お前ミラノにいたんだろ?どうしてウィーンなんかに・・もしかして、フランシスに会いに?」 キースの言葉にメリーアンは身体を震わせた。 「あいつなら会っても無駄さ。フィアンセとのろけてるよ。」 メリーアンの顔が醜く歪んでいる。 「ナージャ・・あの疫病神!!わたくしはフランシスの妻になりたいって、幼いころから思っていたのよ。なのに、あの子がフランシスを奪っていった。憎らしいわ、あの泥棒猫!!それに、私を捨てたフランシス!!2人とも破滅させてやるんだから!!」 女の感情の吐露を、キースは黙って聞いていた。 「なぁ、俺と手を組まないか?」 うつむいていたメリーアンが、顔を上げた。 「どういう風のふきまわしかしら?」 キースはタバコを吸った。 「俺はナージャが好きさ。でも弟はナージャを離さない。俺はなんとかナージャを弟から奪いたい。メリーアン、お前はフランシスが欲しいんだろ?俺はナージャが欲しい。つまり、フランシスが欲しいお前とナージャが欲しい俺・・利害関係が一致するだろ?」 メリーアンはタバコを吸い、しばらく考えていたが、突然甲高い声で笑い始めた。 「気に入ったわ。わたくし、あなたと手を組んでもよくってよ、キース。」 「決まりだな。」 キースはそう言うと右手を差し出した。 「よろしく。」 メリーアンは、キースの手を握った。 「ナージャを破滅させてみせる・・」 そう言うと、メリーアンはかべちょろを掴んだ。 「粉々に叩きつぶして、心も身体もボロボロにしてやるの!フランシスに愛されるのはわたくしなんだから!!」 彼女の手の中でかべちょろは、生命を終えた。 2004年、2月。 キースがフランシスからナージャを奪ってみせると宣戦布告した日から4年。 フランシスとナージャの愛は日に日に深まっていった。 ナージャは高校を卒業したらフランシスと結婚することになっている。 式場の手配、招待客リストの作成、招待状の作成、ドレスの試着・・幸せ一杯の2人は忙しかった。 「高校を卒業したら、あなたと一緒になれるのね、フランシス!」 「待ち遠しいよ、ナージャ。君と早く結婚したい!」 ナージャは母・コレットと再会した後、ダンデライオン一座の踊り子として世界中をまわりながらも、高校に通う日々だ。 1年前、踊り子を休業したナージャは、フランシスのいるロンドンの高校に通い、ハーコート家で暮らしていた。 ナージャとフランシスは結婚を控え、幸せな日々を過ごしていた。 だが、メリーアンがそんな2人を黙って見ているはずがなかった。 メリーアンは記者にナージャの情報をリークし、でっちあげの記事を書かせた。 『ハーコート財閥子息を骨抜きにした魔性の女・ナージャ! 華麗なる恋愛遍歴』 記事に書かれていることは、ナージャには全く身に覚えのないことだった。 ナージャとフランシスがお茶を楽しんでいたとき、この記事を見たナージャの祖父・プレミンジャー公爵と、母・コレットがロンドンにやって来た。 「ナージャ、この馬鹿者が!!」 プレミンジャー公爵はそう言うと、出会い頭にナージャの頬を打った。 「お父様、おやめになって!」 「どういうつもりだ、お前は!プレミンジャーの名を汚すつもりか!」 怒りにまかせて孫娘の頬を撲つプレミンジャー公爵を、コレットが必死に止めた。 「ハーコート伯爵、申し訳ありません。そちらにご迷惑をおかけしてしまって。」 「いいえ・・」 そう言ったハーコート伯爵は、ナージャと目が合った瞬間、彼女を侮蔑の目で見ていた。 「このようなことがあった以上、ナージャをそちらに置いてゆくことはできません。今日こちらに参りましたのは、ナージャをウィーンへと連れ戻すために来ました。」 「お祖父様、嫌!フランシスと離れるなんて嫌よ!」 「黙れ、ナージャ!お前は自分のしたことが恥ずかしいと思わんのか!」 「あの記事に書いてあることは嘘よ!私はなんにもしてない!信じてよ、お祖父様!」 ナージャが必死に訴えても、プレミンジャー公爵は耳を貸そうとしない。 「お父様、いきなりナージャをウィーンに連れ戻すなんて、あんまりですわ。お父様、ナージャの結婚を喜んでいらしたじゃありませんか。」 コレットは無理矢理ウィーンに連れ戻そうとする父に訴えた。 「・・この結婚は、なかったことにする・・」 祖父の言葉が鉛のようにナージャの胸を押しつぶした。 「ハーコート伯爵、よろしいですな?」 突然の事態にハーコート伯爵は動揺したが、 「仕方ありませんな・・」 そう言ってうなだれた。 「お父様、僕はナージャと結婚したいんだ!ナージャ以外の人となんか結婚できない!!」 「黙れ、フランシス!お前は自ら火の粉を被るつもりか!」 「行くぞ、ナージャ。」 プレミンジャー公爵は有無を言わさずナージャの肩をむんずと掴んだ。 「嫌よ、離して!」 ナージャは振りほどこうとしたが、鷲の鉤爪のような頑健な祖父の手はびくともしなかった。 「フランシス!」 「ナージャ!」 フランシスはナージャに駆け寄ろうとしたが、ハーコート伯爵がフランシスを止めた。 「お父様、離してください!」 「駄目だ!」 ナージャの姿が、次第に遠ざかろうとしている。 「フランシス!」 「ナージャ!」 フランシスとナージャは、メリーアンの陰謀によって、無惨にも引き裂かれた。 作戦が成功した後、メリーアンは自宅の浴室で勝利の酒に酔っていた。 「やったわ!これでフランシスはわたくしのもの・・。」 ナージャとフランシス、幸せの絶頂にいた2人があっというまに無惨にも引き裂かれる。 そしてそれはメリーアンの陰謀だった。 恐い女だ、メリーアン・・。 これからフランシスとナージャは再会するのですが、それがまた新たな波乱を呼ぶことになります。 次回はアルフレートとダンデライオン一座の出会いを書きたいと思います。 2つの物語のキャラを織り交ぜて小説を書くのは難しいです・・。 Novel&Message by 千菊丸さん |