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リナと出会ってから――色々あった。 楽しいこともあったけど、 でもそれよりも、多かったのは。 辛いこと。 苦しいこと。 悲しいこと。 その度に、リナはその小さな体で全てを背負った。 重いそれを背負いながら、それでも前を向いて生きていた。 それが、自分を少しずつ傷つけているのにも気付かずに――。 初めて、俺の前で涙を流した日。 堪えても、堪えても、彼女の口から流れる嗚咽は止まらなかった。 『どうして、彼女がこんなになるまで戦わなくてはいけないのだろうか。』 リナが泣き疲れて眠った後。 痕の残る頬をそっと撫でて、ふと思った。 『どうして、彼女を大きなことに巻き込もうとするのか』 誰に尋ねるわけでもなく。 答えを求めるわけでもなく。 けれども、その思いは途方にくれたものではない。 何故なら。 俺は知っているから。彼女の生き方を。 『あたしは、自分の出来ることなら何でもやってみたいのよ。まだまだこの世界にはあたしの知らないことがいっぱいあるんだから』 どんな時でも、リナは自分以外のものに責任を押し付けない。 恨むことだって出来るのに。 それをせず、ただ二本の足で支えている。 そんな彼女。 強い彼女。 弱い彼女。 生きている、必死に生きようとしているリナ――。 そんな彼女に、俺は何をしてやれるだろう。 「保護者」と言っておきながら。守ろうとしながら。 本当はその強い意志が輝く瞳に、俺が護られてた。 あの日、彼女が流した透明な雫に、俺が救われてた。 俺の氷を溶かしてくれたのは、全てに色を与えてくれたのは、リナだった。 結局、俺は、何もしてやれないのか……。 大切な、世界でたった一人の彼女に―― 「ガウリイ?どしたの?」 前を歩くリナが、急に振り返った。 日差しを受けてきらきら輝く栗色の髪が、ふわりと羽根のように舞う。 その様に見とれながらも、俺は少し驚いていた。 「どうしたって――何でだ?」 どうして分かったのだろうか。 「ん〜?何となく。さっきから微妙にペースが変だから……ね」 そう言うと、立ち止まって俺の顔を覗き込む。 澄み切った紅い瞳に俺が映っていた。 瞬間、何だか自分が小さく思えた。 おかしいよな。 普段は見下ろさなきゃいけないほど、リナは小さいのに。 だけどその瞳の中は、何よりも広くて、大きくて。 俺なんかすっぽり入っちまうんだ。 「ちょっと……な」 あからさまには出さないが、心配の色が見え隠れしているリナを安心させるように、微笑んだ。 俺が彼女にしてあげられることなんて、このくらいだろう。 本当は、もっと――もっと何かしてやりたいのに。 「……?」 リナの表情が不思議そうなものになった。 きっと、俺が言った言葉の裏を考えているんだろう。 でも、分からない方がいい。 いつか言われたように。 悩んでいる姿をリナに知られるのは、俺としては歓迎せざるものだから。 何時でも、お前を支えていける俺でありたいから。 「さ、早く行かないと街まで着かないぞ。野宿は嫌だろ?」 くしゃり。 いつもやる、彼女の頭を撫でる行為。 これをやると必ず彼女から苦情が来る。 『もうっ!!髪が痛むからやめてよっ!』 だけど……今日俺に来たのは…… ぱんっ! 「って〜っ……」 背中に走った痛みだった。 何事かと前を見ると、そこには――『リナ』がいた。 生気に溢れた瞳を俺に向けて。 「そうよ!野宿は嫌よ!だから……行くわよ、ガウリイ!」 小憎らしいほどの笑みを浮かべて。 普通の人なら、「何するんだ」と怒るとこだろう。 でも、俺には聞こえた。 聞こえたような気がした。 『あんたは、ここにいるだけでいいのよ』と。 叩かれた背中から。 紅く輝く瞳から。 不敵に微笑む表情から。 俺の中の何かが、急速に緩んでゆく。 (全く……素直じゃないな……ま、そこがリナらしいんだけど) 心の中でそう呟いて。 俺は、いつもと同じ返事をした。 「おうっ!」 彼女にしてやれる最大の、笑顔で――。 |