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湿気をたっぷりと含んだ空気。蒸し暑く寝苦しい、こんな夜には”やつあたり”をするに限る。 とはいえ、街が寝静まってる真夜中にその辺の人を起こして「暑い」と愚痴ってはいけない。やつあたりの標的(ターゲット)としてベストなのは、人々から恐れられ疎まれ、人として生まれながら人権を自ら放棄した存在つまりーーーーーーーーーー盗賊たち。彼らこそ、あたしにやつあたりをされるために生まれてきた素敵な存在なのである!……………たぶん。 というわけで。 ベッドから飛び降り身支度を整え。あたしーーー天才美少女魔道士リナ=インバースは、部屋の窓から外へと飛び出したのであった。 一つ学んだことがある。 こんな蒸し暑い夜に出歩くもんじゃない、ということを。特に、木々がうっそうと生い茂る森の中。ひさびさに盗賊いぢめが出来る思ってはりきって完全装備でやって来たのもまずかった。弱冷気の呪文を唱えては見るが気休めにしかならない。 汗だくになりながらも盗賊のアジト目指して進んでいたが、いい加減愚痴の一つもこぼしたくなる。誰も聞いていないのを承知で、あたしは叫んだ。 「あーもうっ! 何で盗賊の隠れ家ってぇのは平原のど真ん中とか街中とか、分かりやすいところにないのよっ!」 その時、 「……………んなとこに本拠地があったら、すぐに捕まっちまうだろーが」 聞き慣れた声があたしの背後からした。 「!?」 驚きで声も出ず、咄嗟に振り向くのが精一杯だった。その反応が気に入らなかったのか、声の主は手を腰に置き、ジト目でこちらを見ながら言った。 「ずいぶんな反応だな、リナ」 「ガ、ガウリイ……………どぉしてここがわかったのよ?」 ーーーーーちちいっ! 今夜は確実に仕留めた(「眠り」をかけた)と思ってたのにっっっ………なんて言えない、絶対にっ。 などと内心冷や汗を流しながらそれを悟られないよう、あたしは話題をさりげなくそらす。彼ーーーあたしの自称保護者であるガウリイ=ガブリエフはしっかりノってきた。彼はあたしの視線から逃れるように目を泳がせ、鼻の頭をポリポリかきながら言った。 「寝苦しくてちょっと夜風にでも当たってくるかと外へ出たんだが………」 「『出たんだが』?」 「まだ宿に居た方がマシだったなと今、後悔してる所だ」 ーーーーーをや? 何とも歯切れの悪い言い方だった。彼らしくない。 とりあえず、彼に関して考えられることをあてずっぽうで言ってみる。 「……………道に迷って宿屋に帰れなくなったから?」 溜め息が彼の口からひとつ。 「宿でお前さんの盗賊いぢめを阻止できていたら、だ。わざわざこんな蒸し暑い森の中に入って汗をかくこともなかったって言ってるんだよ」 やっぱり今夜のガウリイはおかしい。 これでは問いかけの答えになっていないではないか。 あたしは『どうして、夜の散歩に行ってたガウリイがあたしを発見できたのか』を尋ねているのだ。いつもの彼だったら、良く言えば単純明快、悪く言えば身も蓋もない言い方で答えていることだろう。のーみそはクラゲ並のガウリイだが、理解力はある………ハズだと思いたい。 もう一度、今度は彼の目を見ながら。質問をもう一度繰り返すのは面倒でイヤだったので、 「ーーーーーで?」 と”念押し”するように尋ねてみた。 あたしの気迫に押されてか、彼はしばらく迷っているようだったが、やがて顔を上げ後頭部に手をやり、明るく笑いながら言った。 「いやあ、宿までの道を忘れてうろうろしてたらお前さんが完全装備で見覚えのない建物の窓から出てきたから後をつけたんだ」 「結局道に迷ってるんじゃないのあんたわあぁっ!」 すっぱーーーん! あたしはすかさず懐から最近愛用している”ツッコミ専用スリッパ”を取り出し、ガウリイに強烈なツッコミを入れたのだった。 かくして。 道を忘れた間抜けな自称保護者さんを宿屋まで連れて帰るという条件で、あたしは、盗賊いぢめを心行くまで堪能出来たのである。 めでたし、めでたし? |