|
「――おいっガウリイじゃねーか!?」 「…へ?」 とある街の大通りで。 いつものようにガウリイと一緒に買い食いをして歩いているときだった。 突然かかった声に振り向くガウリイ。 「ああ、やっぱりガウリイじゃねーか!お前こんなところで何してるんだよ?」 あたしは、そう言ってガウリイに走り寄ってきた男の顔を見る。 ガウリイと同じように、ライトアーマーを身に付け、肩には大振りの剣を背負っている。 少し伸びかけの黒髪を無造作に縛り、年のころは30ほど。 おそらく、傭兵時代の知り合いか何かだろう。 ――きっとこのあと、『誰だっけ?』とかいってボケをかますのがおちだろうな…。 しかし、あたしの予想は大きく外れることとなった。 「――お前、もしかしてファラスか!?」 「ああっ!もし俺のことを覚えてなかったら、即座にぶった切ってやってたところだったぜ!」 「忘れるわけないだろうが。久しぶりだなぁ」 偶然の再会を喜び、固く抱き合う男たち。 ガウリイが人の名前と顔を覚えてる!? あ、明日は雹が降るかもしれないわね…。 ある意味大きなショックを受けているあたしの横で、なにやら盛り上がって話し込んでいるガウリイたち。 ――いかんいかん、このままあたし一人置いてきぼりをくらうのはちょっと…。 「あ、あの…?お取り込み中のところ、すみませんけど…?」 恐る恐る話しかけるあたしに、ガウリイがようやっとこちらを振り向く。 「ああ、すまんすまん。あまりに突然の再会で、俺も驚いちまってな」 そういってガウリイはあたしの横に並んだ。 「紹介するよリナ。こいつは傭兵時代の俺の仲間で、ファラスだ。ファラス、こいつはリナ。俺の――相棒だ」 ファラスはしばしの間あたしを見つめ。 次の瞬間、あたしに向かって吐いたセリフは――。 「ガウリイお前…いつの間に女の趣味が変わったんだ?昔はもっとこう、ぼいーんと…」 「ファラス!」 慌てて口をふさいでいるガウリイ。 ――甘い。あたしのエルフ並みの聴力をなめてもらっては――。 「ぷはっ!?いきなりなんだよガウリイ!?再会してすぐにそれはないだろ!死ぬかと思ったぞ!」 「そのまま死んでこいメガ・ブランドォッ!!」 ちゅぼべばごーんっ!! 「ぬわぁっ!?」 「やっぱりこうなるのかあぁっ!?」 ガウリイの手を振りほどいて、文句を並べ立てるファラスと、隣にいたガウリイをも巻き込んで。 あたしの怒りの魔法が炸裂した。 あたしの魔法で二人が仲良く吹っ飛ばされたあと。 意外にもわりと早く復活した二人が、一通りあたしに文句を並べ立てた後、みなで近くにあったレストランへと入った。 もちろん、苦情は全て黙殺しておいたが。 「――それでガウリイ、この乱暴なお嬢ちゃんと一緒に一体なにしてるんだ?」 ――さらにケンカを売る気か?このおっちゃん…。 あたしがジト目で睨んでいるのに気付いたのか、ガウリイが慌ててフォローを入れる。 「そういうなってファラス。こう見えてもこいつ、かなり腕の立つ魔道士だぜ?その辺の魔族なんかちょちょいのちょい、だぞ」 「ほおーそりゃあかなり凶暴なんだなぁ」 ガウリイのフォローもむなしく、さらに聞き捨てならないことを言うファラス。 「人のこと散々言ってくれるじゃない?そういうあなたは、ここで何をしてるの?大きな剣背負ってるけど、見せ掛けだったりしないわよね」 さっきの仕返しにと、皮肉をこめたあたしのセリフに。 さっきまで陽気に話していたファラスは、一瞬だが表情を曇らせた。 ――おや…? 「?どうしたんだ?ファラス」 ガウリイも彼の変化に気付いたらしい。 ガウリイの問いにファラスは、言いにくそうに頭をかいた。 「いや、実はな…俺も一人相棒、というか…一緒に旅してるやつがいたんだが…」 「捨てられたとか?」 冗談交じりのあたしのセリフに、ファラスの顔にさっと朱が走った。 「そんなんじゃねぇ!」 突然叫んだファラスに、驚いて目を見開くあたしたち。 我に返ったらしいファラスは、バツが悪そうに再び頭をかいた。 「あ、…いや、すまん。気にしないでくれ。そいつ――いわゆる魔法剣士、ってやつなんだが。とある事件で組んで、その、なんてゆーか…俺がそいつに惚れこんじまってなぁ」 そういう彼の顔は、うっすらと赤く染まっている。 「それで、色々あったあと、二人で旅するようになって、一昨年に結婚して。でも旅は続けてたんだ――ずっと。これからも続ける予定だった」 ――だった? 彼の物言いにひっかかったあたしは、思わず問い返そうとしてファラスの顔を見る。 ファラスは、先ほどまでとは全く違う様子で。 ――ひどく、苦しんでいるように見えた。 「はは、未来なんて分からないもんだよな。そいつ、この間通りがかった小さな村で、流行病に侵されてな。気付いたときにはもうだいぶ進行していて」 そこで小さく息を吐くファラス。 「小さな村じゃ何もできないから、とりあえずこの街まであいつを運んで、治療に励もうと思ったんだが――」 ――先は、なんとなく想像ができた。 「…受け入れ拒否、ってこと?」 「その通りだよ、嬢ちゃん。頭はいいのな」 そう難しい推測ではない。 近くの村ではやっている病。 もちろんこの街まで噂は届いているだろう。 病院も、宿屋も、その病を患った彼女の受け入れを拒否するのは、想像に難くない反応だ。 「そう簡単には感染しない病なんだ。ある一定の条件を満たさないとな。そうと知っていながら、この街の連中はあいつを拒絶して――でもあいつの体力を考えると、もうこれ以上この街から動くこともできなくてな」 黙って彼の話を聞くあたしとガウリイ。 騒がしいはずの食堂は、あたしたちの周りだけ、静寂に包まれている気がした。 「街はずれに小さな家を借りて、ひっそりと暮らしてる。ここで――あいつを看取ってやるつもりだ…」 しばしの沈黙が、あたしたちを支配する。 あたしが、なんと言葉をかけようか考えあぐねていたそのとき。 ファラスはがたんっと音を立てて立ち上がると、先ほどとは打って変わって、陽気な口調で言った。 「いや、すまんな、なんだか雰囲気を暗くしちまってさ。気にするな!」 「ファラス…」 「そうしみったれた顔すんなって、ガウリイ。俺、そろそろ行くわ。街の東のはずれの白壁の小さな家に住んでるから、街を出るときには寄ってくれよな!」 そういうと、ファラスは勘定をテーブルに置いて走っていってしまった。 呼び止めることも出来ず、あたしたちだけが、食堂に残された――。 ――その日の夜。 こんこんっ。 小さく部屋のドアをノックするあたし。 もちろん――ガウリイの部屋である。 「お、リナか?開いてるぞ、入れよ」 「――うん」 促されるままに部屋のドアを開け、中に入るあたし。 ガウリイはお風呂から上がったばかりなのか、濡れた長い髪をタオルで拭きながら、あたしの方を向いた。 「どうした?明日の予定のことか?」 「そうよ」 あたしはそう言って、近くにあったサイドテーブルに寄りかかる。 「あたし、この街の魔道士教会で調べものしなくちゃいけないから。しばらくこの街に滞在するわ。ガウリイも昼間は好きにしてていいわよ」 もちろん、こんなのは口実だ。 街といってもそこまで規模が大きいわけではない。 魔道士教会にある資料なんて、たかが知れているのだ。 それでも、昼間、ファラスの話を聞いたあとのガウリイの表情を見ていれば、彼がどうしたいかなんて一目瞭然だった。 「――リナ」 「あ。でも」 何か言いたげなガウリイを制して先を続けるあたし。 「別にたいした用事でもないから。出発したくなったらあたしに言ってね。いつでも出発できるようにしておくから。それだけ。――おやすみ」 あたしは早口にそういうと、くるりと背を向けて部屋を立ち去ろうとした。 そのとき。 ガウリイがあたしの腕を掴んだ。 「――何?ガウリイ。もう眠いんだけど、あたし」 あたしは振り向かずに言う。 「リナ。――さんきゅ」 「お礼言われるようなことしてないわよ」 あたしのセリフに、うしろでガウリイが小さく笑った気配がした。 あたしの腕を放すと、くしゃりとあたしの頭をなでる。 「おやすみ、リナ」 「――おやすみ」 あたしはそれだけ言うと、ガウリイの部屋を後にした。 |