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「……で、よ。わかった?」 「いや…、よくわからんのだが…。」 「だぁぁぁぁぁ!あんたって奴わぁぁぁ。」 「わぁぁぁ、リナ!今のは冗談、冗談なんだ!あばれないでくれぇぇ。」 おもわず頭を抱えて暴れだしかけるあたしをガウリイが必死に止める。 その必死に形相に寛大にも思いとどまって、もう一度問い掛けた。 「…で、なんだって。」 テーブルの上に手を組んで睨み付けるあたしに怖いものを感じたのか少々おびえながら返事を返してくる。 「いや、だから…・。この剣に関しては、切れすぎて危ないからとかげのえらいおっさんにかいてもらったしかけがしてある。 んで仕掛けをはずすときはリナに言う。仕掛けをはずした後は危ないから忘れてさやにしまうな…。だろ」 こっちを見てびくびくしながら答えを返す様子は気に入らんが・・。まあいいだろ。 「わかってるじゃない。ふん、よろしい。ただし使うときに忘れたとか、覚えてないとか抜かしたらドラスレ使うわよ。 …・言っとくけどあんたのことなんだからね、もちっとちゃんと聞きなさいよ!」 「わかってるよ。さんきゅな。」 ひとつ息をついてから吐き出すように言った言葉。 ニッコリ笑顔で答えたそいつに、苦笑をまじえた微笑みを返す。 食事をとりながらの日常の一幕。 ガウリイとあってから何度となく繰り返されたやり取り。 時折ガウリイに注がれる、女性客やウェイトレス。または依頼人の熱い視線も、あたしに対する非難と嫉妬交じりの目線もいつもどおり。 恋に目を潤ませながらガウリイに視線を送る女の子達に苦笑する。 ・・・変な趣味・・・ まあやさしいからね。 まあ見かけがいいから。 ・・・真実を知らないって、恐ろしい。 あたしに突き刺ささる嫉妬の視線にため息をついて あたしを見つつ首をかしげるその動作にむかつきながら いつしか、本当にいつしか何かが心の奥の奥にたまっていっていた。 「ひょっとして、旅する理由を探してません?」 「へ?」 「図星だとすると、どうしてそんな理由を探すんです?」 フィブリゾとの決戦前、そう聞いたのはシルフィールだった。 その言葉が、彼女の存在が 何かにさざなみをたてていった。 どうしようもないやるせなさを伴って 気付こうとしても気づけなかった未知のもの 気付くのが怖くて気づかない振りをしていたもの 彼がほかの女の子に笑いかけるたび、やさしくするたびに ガウリイはガウリイで、まったくあたしが知らないところも、たくさん持っているんだとふと気づいたときに 夜の酒場で知らない男に誘われて、 おごってもらったと笑うあたしにしょうがないやつだと苦笑して そいつはため息をつきつつ頭を軽くたたいてくる。 子供扱いしないでと怒るあたしをわらって軽く受け流す。 ったく!むかむかする はじめてあったとき、どんなにあいつがむかつくやつだったか おもいだして心の中で笑いながら、無意識のうちに感じた痛みを押さえつけてた。 前より腹は立たないのに、なぜかどんどん大きくなる痛みに困惑して。 痛みなら昔も少し感じてた。 昔感じた痛みはコンプレックス でもあいつから与えられる痛みは、いつしかまったく違う意味の痛みへと変化していたのに 本当はわかっていた ずっとこのままではいられない いつか旅の終わる日がくる 魔王との決戦の前だった。 もっとおいしいものも食べたい、実家の商売だって手伝ってみたい、恋だってしてみたいとあたしはいってた。 でもそれはあたしだけのことではなくて。 ガウリイだっていつか未来に、いや今であっても、何か"今"あるものとはとは違うものを望んでいるのかもしれない。 あたしとの当てもない旅とは別の道を選ぶ日がくるかもしれない。 いつかほかの誰かを守るため、あたしとは別れた位置に幸せを見つけ、ガウリイがこの旅から下りる日がくる。 きっといつか。 私たちにはお互いの旅(人生)にかかわる権利はないのだから。 今日?明日? いつしか当たり前になっていた。 ガウリイがそばにいてくれることが、 守ってくれることが 彼のこの腕はいったいいつまで自分のものなのだろうか? 自分でも気づかなかったほんの少しの 不安は あせりは 苛立ちは それらを生んだ心の奥底に芽生えていた思いは しらないうちにつもり、つもって いつか向き合わなければいけない日がくるよ… いつか気づくよ たぶん・・それは・・すべてが遅すぎるそのときに・・ だから… またひとしずくおちた水滴が、幾重にも波紋を広げ、心の水面にさざなみを立てていく。 初めはほんの一滴でも 流れる場所のない想いのかけらたちはたまり、泉となり、いつしか淵となり、 自分自身でも気づかないうちに心の奥深く、静かに横たわる。 一滴の思いの立てる波はやがて水かさとともに大きくなり、淵はさらに深くなる。 すべてが遅いそのときに 切れた堤は、 あふれた水(おもい)は きっとあたしの心を押し流してしまう。 でも、どんなに波が大きくなっても ガウリイがそばにいてくれる限り、今の一瞬が続く限り その堤は強くて、強固で その奥にあるものを気づかせない。 だから今日も心の奥で、その日がくるのを恐れながら あたしは知らないところで立ったさざなみに、わけもなく苛立ちながら、今日の日をすごす。 いつかその日まで
<了> |