つもりゆく…  

Side  ガウリイ


作:牛乳パックさん♪


大切だった。
守りたかった。

ただ、それだけだと思っていた。





「どうもありがとうございます。」
「礼を言われるようなことでもないわよ、報酬はもらったしね。」

軽く笑って、手を挙げたリナにほほえみ、そいつは言葉をつなげる。

「さすが噂に違わず…といったとこですね。ねえリナさん、明日にはこの町をでられるんでしょう?
もう少し魔道の話も聞きたいし、最後に食事でもご一緒できませんか。・・あ、ガウリイさんも一緒に。
お世話になりましたしごちそうしますよ。」
「そうね、あたしももう少し話がしたいし・・。いいよね、ガウリイ。」
「ああ、オレはかまわないけど。ただ、あんた、おごるのは考え直したほうがいい。
そうしないと…うべぇ」

問答無用で炸裂したつっこみスリッパが、オレを沈黙させた。

「なぁーによけいなこといってんのかなぁ。あんたは。ああっ、もうあんたは宿屋にのこってて。
だいたい今思ったけどあんた話聞いてもどうせなんもわかんないでしょう。あたしだけおごってもらうから♪♪」
「あー。一人だけずるいぞ、リナぁ。」

リナと出会ってから、ずっと続く何気ない日常の一幕。
リナと、オレと、時にはそれに混ざる仲間や依頼人。

今回の事件は魔道士協会からのもの。ゲストは事件担当の男の魔道士が一人。

おさだまりのどつき漫才を始めたオレ達を見ながら苦笑しつつも笑ってる。
ちらりと移した目線の先、そいつのオレを見る目に影が差したのに気がつかない訳じゃない。
いや、気がついたからこそ無視した。
ぶつぶつ言ってるリナをなだめながら、さりげなくその肩に手をまわす。
たわいもない話をしながら食堂へと向かう道すがら、
屈託ない笑顔を浮かべているリナをはさんで
笑うオレと、そいつの視線が交錯する。
オレ達の瞳の奥深くにある何かがぶつかり合う。


なぜ気付かない、リナ?
この視線を、思いを。




いつの頃からか、リナに向けられるようになった視線。


   気の毒に。まだあいつには通じんさ。


空回りする思いに落胆し、関わり合える短い時間に舌打ちしながら視界に移らなくなる男達に同情混じりの苦笑を向け、
無意識か、意識してかオレに向けられる、かすかないらだちの視線に肩をすくめていた。

いつか気づかざるを得なくなっていた。


オレの目に映る、男たちのいらだち

いつのまにかリナの瞳に映るオレは、それと同じ物を浮かべ皮肉な笑みを浮かべていた。


いらだっているのはおまえだろうと、
おまえも、あいつらと同類だろうに、と。




リナと旅するようになって、どのくらいの月日が流れたろうか


出会ったときはまだ子供だった。
放っておけなくて、つい保護者をかってでた。

旅を続けるうちに、彼女との距離は少し変化した。
信頼にたる相棒、パートナー

いつしか自分にとって何よりも大切な存在になっていた。


初めのうちは、そんなことにさえ、たぶん気付いていなかった。
いつの間にか側にいるのが当たり前で、

リナが傷つくより自分が傷つく方がずっと楽だと、
その体を盾にするようになってずいぶんたっても

鼻先をかすめる栗色の髪に、つい伸ばした腕を、
止める回数が増えてきていたとしても


その気持ちはつかめなかった。



いつからだろう

いつの間にか、彼女を目で追っていた。
向けてくれる笑顔に安らいだ。

相棒としての信頼感、妹に対するような柔らかな親愛の情
家族に対するような暖かな安心感


そんな穏やかなものだけが、彼女に向ける感情のすべてだと、
どこかで自分に言い聞かせていたのかもしれない。




オレが、その気持ちに気付いたきっかけは、
ばかばかしいほどに、ありきたりだった。


野宿を決めた湖の畔
水と戯れる彼女の姿態を偶然目にして・・

目をそらそうとして、できなかった。

月明かりに光るリナの体は、
女といってしまうには、あまりにも細く、はかなげで、
男の劣情を誘うには、どうしようもないほどに女だった。


体を貫いた旋律が、心の底に横たわる、その思いを悟らせた。


すでに確立した関係に紛らわそうと、無意識に自覚をさけていたもう一つの思い。
気づいたときには、その思いは暗く、心に淵を作る。

餓えすぎて、逆に気付かないほどに、オレはずっとリナが欲しかったのだと、
オレは不意に自覚した。

自覚のない思いは、気付いたときには深みにはまっている。
そんなことを聞いたのは、傭兵時代の事だったか。

そんな言葉を笑い飛ばしていたあのころのオレに、

気付いたときには、持て余すほどましていた思いを抱え、呆然と立ちつくす今の
オレに、

自嘲の混じった苦笑を送りたい。



オレは恐れている。


自覚した自分の思いを
彼女を失うことを
今の関係が壊れてしまうことを


オレは恐れている。


まだ恋も知らない彼女を
彼女が恋を知ることを

彼女が恋を望んだとき、
自分が男として、彼女の目に映ることがないかもしれないことを



当たり前に続く、リナとの毎日。

でもわかっている。
ずっとこのままでいられるわけがないことは


いつかは旅の終わる日が来る。

旅を終えて、平穏な生活を望むとき、
恋を獲て、彼女が女へと変わるとき

その隣に、オレは立っていられるのだろうか?



いまのままでは拭いきれない不安が
かなえられない望みが
止めようもなく増していく思いが


このままで十分だと
そう思いながらも変わらない日々に対するいらだちが



つもり、つもって


ふと気がつくと心の奥深く、淵となった思いが深く、黒く横たわる。

恐れているのは気付いているから
いつか水かさをました淵は、
堰を切ったその思いは、今まで築き上げた物、すべてを

一瞬で押し流す。


わかってはいても離れられなくて


いつか堰を切るかもしれない思いを、内に隠して
ただ優しい日常が続く。

側にいられれば
彼女を守ることができれば、それで十分なのだと
ただそう思ってもいたから。



前を走る、リナの後を追いかけながら
たまには酒場で酒を酌み交わしながら


交わす瞳の奧に、黒い影を隠しながら

いつか来る、その日におびえながら




オレは今日も、眠れない夜を過ごす。

いつかその日まで。





<了>


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