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時々自分に問いかける。
どこまで行けば辿り着くのだろう と。
例えば、今日みたいな満月の日。
「ガウリイ」
声がした方に振り向けば予想通りの人が立っていた。
「お前、こんな所にいたのか」
「あぁ。月、見てた」
そう言って再び視線を空に向けた。
彼はぽんっとオレの頭に手を置いて、
「くそっ。お前、驚かなかったってことは俺に気づいてたな?」
「気づくよ。それくらい。……何で毎回オレを驚かそうとするんだよ」
「それくらいって……俺は完全に気配消してたつもりだぞ」
はーっと深いため息をついた。
「お前には敵わないよ」
「いつもは気配なんて消してなかっただろ。
今日わかったのは偶然だよ。
それに……最後に声かけてくれるってわかってたし」
オレの言葉にはっとしたように彼はこちらを見た。
「ガウリイ……お前、気づいていたのか……」
「まぁ、他の奴らは気づいてないみたいだけど」
オレは彼の方を向いて、
「……オレ、負けないよ。
生きていく理由なんてわからないけど……死にたくないんだ」
「バーカ。生きてる理由なんてもんがお前みたいなガキにわかってたまるか」
彼はぐしゃぐしゃとオレの頭をかき混ぜる。
「おいガウリイ。普通ならここでオレを殺しておくってのが普通なんだぞ」
「オレ、そういうの嫌いなんだ」
「ったく、甘すぎるよ。お前は。
……でも、俺はそんなお前が気に入ってるよ」
「……オレも隊長のこと尊敬してる」
「バカ。俺なんか尊敬するな。
……じゃぁ、俺は行くからな」
彼はオレの頭に置いていた手をひらひら振りながら去っていく。
「……理由。見つかるといいな」
彼は一度だけ振り向いてそう言った。
「…………うん」
オレと彼は、明日敵同士になる。
別にそれは珍しいことではなかったけれど。
彼には色々なことを教えてもらったから……
少し、寂しかった。
家宝の光の剣を持って家を飛び出してから随分たった。
傭兵なんて物騒な仕事していると死にそうな目にも結構あうが、運がいいのか何とか今までやってこれた。
時々家が恋しくなったが、家には大好きだった祖母も兄ももういない。
無性にこの剣が重たくなって捨てたくなる時もあった。
でも捨てちゃいけないっていうのはよくわかっていた。
ただ、いくら探しても、どこまで行っても、オレもこの剣もいてもいい場所なんて無くて悲しかった。
ある日、一人の女の子に出会った。
世間知らずなのか、強がっているのか、それとも本当に強いのか。
数人の野党に囲まれているのに慌てた様子も無く堂々と立っていた。
見なかったことにする気になれず、お節介になるかもしれないが助けることにした。
後に、彼女が自分なんかと比べ物にならないくらい強い人だと知ることになる。
「ガウリイ」
「ん? どうした?」
「ちょっと……呼んでみただけ」
そう言って、リナはえへへっと笑った。
「何か、さ。
たまにはこういうのもいいわね」
街道沿いに咲いた、名も知らない花を見ながらリナは言う。
――確かにこうしてのんびり歩いていると普段の騒がしさが嘘みたいに思える。
別に騒がしいのが嫌いってわけじゃないが自分から首を突っ込むようなマネは出来るだけ控えて欲しいとは思う。
例えば、盗賊いぢめとか。
ただ、どんな状況だろうとオレはリナの隣にいるし、離れる予定も全くない。
「って、ガウリイっ! 聞いてるの!?」
リナの声で我に返った。
「……あー、すまん。ぼーっとしてた」
「…………あんたはいつだってぼーっとしてるでしょうが。
とにかくそろそろお昼にしましょうよ」
「へ? ちょっと早くないか?」
「……あんたマジで人の話し聞いてなかったわね…………?
天気もいいし景色もいいから、早めだけどここいらで食べようって言ってんのよ。
どうせ次の町には日が高いうちにはつくからお腹減ったら町で食べればいいし。
…………とにかくおばちゃんが作ってくれたお弁当が早く食べたいのよっ!!」
なるほど。
最後に一番の理由を述べてから、リナは道から少し外れた川の方へすたすたと歩いて行ってしまった。
確かに昨日泊まった宿の飯はかなり美味しかった。
宿のおばちゃんに弁当を貰ってリナがかなり嬉しがっていたことを思い出した。
リナに追いつくと彼女はすでにショルダーガードを外し、マントを自分の下に敷いて弁当を広げていた。
「リナ。オレの分まで食べるなよ」
「ガウリイ。人を何だ…………」
ぽん。
「こらこらこら」
何やら言いかけたことを途中で止めて手を合わせるリナを見て、ひたすら嫌な予感がしたので慌てて自分の分を確保することにした。
「あたしは負けない」
誰もが絶望するような状況で、彼女はそう言い切る。
リナは不敵に、そしてとても綺麗に笑う。
誰もが惹きつけられる意志のこもった瞳で前を見据えて。
「だから、あなた達も負けないで」
そのセリフに。
オレだけでなく何人もの人達が幾度となく救われる。
「何よガウリイ? さっきからこっち見て」
「……いや、何でもない」
オレは慌てて視線をずらした。
…………ついついリナを見つめてしまう。
多分、さっきのリナの言葉でいつもと違うって自覚してしまったからかもしれない。
普段はもっとバタバタしていてじっくりとリナを見る機会も少ないと思う。
だからこんなのんびりした状況だとやることがなくてリナに目が行ってしまうんだろう。
リナの細い肩を見て、小さいなって改めて思ってしまう。
そんな小さい身体で、軽い足取りでリナは歩く。
実際には、その身が潰れないのが不思議なくらい重いものを背負っているのに。
「リナ」
川のほうをボーっと見ているリナを後ろからちょっとだけ力を込めて引っ張ってみた。
「みゃっ!?」
見た感じよりも更に小さく感じて、正直ドキッとした。
「リナはちっちゃいなぁ……」
「むっ。ちっちゃくて悪かったわね」
「……なんでそーなるんだよ」
オレは思わず苦笑した。
だから、時々忘れそうになるんだ。
今まで味わってきた楽しいことや嬉しいことや苦しいこと、悲しいことを全部。
決して忘れてしまうことのないように。
失くしてしまうことのないように。
その胸に抱えていることを。
リナの心は自由そのもので、まるで空みたいだと思う。
どこまでも続く青空は誰もが心を奪われるが、誰の手にも届かない。
きっとオレがどう言ってもリナはその生き方を変えないだろう。
それなら、オレはずっとリナの傍にいたい。
重さに耐え切れなくなって倒れそうになった時、支えることができるかもしれない。
もしかしたらリナの荷物を、たとえ代わりに持つことができなくても、軽くすることができるかもしれない。
リナのことを、幸せにできるかもしれない。
……まぁ、リナの場合、自分の力だけで幸せになりそうだが。
リナが幸せそうにしていると、オレも幸せだし。
――と、ここまできてやっと気がついた。
珍しく色々と考え込んでしまったが。
どうやらそれは、オレがリナのことが好きなことを再確認したかっただけらしい。
バカか、オレは。
何をやっているんだろうと苦笑が漏れる。
「ガウリイ? どうかした?」
「……いや、何でもない」
そう答えてから、ふと、このことを伝えたらリナはどんな反応をするだろうと興味がわいた。
馬鹿じゃないの? と言ってあきた顔をするだろうか?
真っ赤になって顔を背けてしまうだろうか?
それとも……
「なぁ、リナー」
「なに?」
「ちょっと聞いて欲しいことがあるんだが……いいか?」
「うん? いいけどどうしたの? いきなり改まって」
どういう風に伝えたらいいか分からないから……
とりあえず、昔話から始めますか。
「オレさ、時々どこまで行けば辿り着くんだろうって考えてた時があったんだ」
Fin.
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