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その日は、この夏一番の暑い日だった−−−−−−。 新大陸・・・と呼ばれ始めた、オレ達の元々の居住地域の先に広がっていた大陸。 魔族側の結界とかいうのが崩れたせいで行き来が可能になった(・・・らしい:リナ談)その大陸で、オレ達は異世界・・・とかいうところの魔王と闘った。 色々なことがあったが、オレ達はその戦いに勝利し、元の大陸へと戻ってきた。 ・・・・・・往き道と大きく変わったことといえば、オレの腰から光の剣が無くなったことくらいで−−−−−−。 「ううぅぅ・・・やっぱり、部屋の外は暑い〜!」 宿屋の1階で経営されている食堂のテーブルに突っ伏して、リナが呻く。 まぁ、元々こいつは暑さ寒さに弱いから、仕方ないかもしれないが・・・でも、だらしないぞ、リナ。 襟元を緩めた状態でそーゆー格好をすると、首筋が丸見えじゃないか。 ・・・暑さ対策のため、アップにされた髪のほつれ毛も、汗でうなじに張り付いていて−−−−−−って、なんだ、あの奥のテーブルの奴等!!ジロジロとリナのこと眺めやがって・・・!! 男どもの視線からリナをさりげなく隠し、オレは栗色の頭をぽんぽんと叩く。 「そう唸ってないで、さっさとメシ食って、部屋に戻ろうぜ。そしたら、暑さは凌げるだろう?」 「そぉだけどさぁ〜・・・・・・ううっ・・・早く注文したヤツ、来ないかしら・・・」 「勝手なことばっかり言うんじゃない。 ・・・全く、客は俺達だけじゃないんだぞ」 「でも、そうは言っても早くご飯を食べたいのも事実ですよ。 さすがの私も、今日のこの暑さはちょっと・・・。 それに、午前中はず〜っと古文書の解読をしていて、一歩も部屋の外には出ていませんけど、おなかはペコペコですぅ・・・」 「・・・・・・まぁ、そりゃあな」 同じテーブルについているゼルガディスとアメリアも、今日のこの暑さにめげているらしい。 ・・・特にゼルガディス、暑そうだよなぁ・・・あの岩肌。 なまじっか、みんなして部屋をマジックアイテムや魔法の力で適温状態にしているせいで、余計に外を暑く感じるみたいなんだよなぁ・・・。 「・・・でもさ、ガウリイってホント、暑さ寒さに強いわよね・・・羨ましい・・・。 ってゆーか、もしかして気温の変化を感じていないのかしら・・・」 「お前なぁ・・・感じてるに決まってるだろうが。人をバケモンみたいに言うんじゃない」 「じゃあ少しは暑そうな素振り、見せなさいよね〜・・・・・・って、待ってましたのランチセット〜♪」 宿のおばちゃんが山積みの食事を運んできたのを見て、リナの瞳が輝きだす。 ・・・ホント、幸せそうに笑うよなぁ・・・・・・って、見蕩れてると、オレの分が無くなっちまうんだよな・・・いざ、しょーぶっっ!! 「って、おいリナ!それはオレが今食おうとしたクリームコロッケだろっ!」 「とか言いつつあたしのポークソテー盗らないでよね!!」 「お前だって、そのフォークに刺さってるサーモンフライは誰のだよっ!!」 「あんたのもんは、あたしのもんよっ!」 ・・・と、いつものお食事バトルが開始される。 この宿に滞在するのも結構長くなっているので、宿のおばちゃんや、常連客なんかは驚きもせずに、日常風景として受け止めてくれている。 ・・・ま、そりゃ毎回のようにこーゆーコトしてりゃ、見慣れちまうよな。 旅の連れのゼルガディスとアメリアも、上手に自分の分の食事を確保して、オレ達に構わずに食ってるし。 ・・・・・・だから。 この昼飯・・・いや、今日という日も、いつもと同じように始まって、いつもと同じように終わると思ってたんだ。 −−−−−−宿の入り口に、懐かしい気配を感じるまでは−−−−−−。 カチャーーーンッッ 「・・・?ガウリイ?」 照焼きチキンの取り合いの最中、いきなりフォークを取り落としたオレを訝しげに見るリナ。 ゼルガディスとアメリアの視線が向けられたのにも、気付いている。 ・・・だが、オレは宿の入り口から目を離すことが出来ないでいた。 なぜならそこには・・・・・・ 「久しぶりだな、ガウリイ」 「ログシア・・・・・・」 ・・・数年ぶりに、会う、オレの従兄弟が・・・静かに立っていたのだった−−−−−−。 「・・・良かったのか?お仲間を置いて出てきちまって」 「わざわざお前が直接会いに来たって事は、いい知らせってわけじゃないんだろう?」 「・・・まぁ、な」 そう言って眉を寄せたオレの従兄弟、ログシア=ガブリエフは、目を伏せて短く整えられた金の髪をかきむしるのだった。 「・・・だったら、話を聞くのはオレだけで十分だ。 あいつらは、今集中して、古文書とかいうのの解読に取り組んでいるしな。 ・・・・・・で、どうしたんだ、本当に」 「・・・オレが、ここに来た理由か?」 「ああ。エルメキアから、近いってわけでもないこの街にわざわざ足を運ぶなんて・・・・・・『隔幻話』とかいう魔法や手紙じゃ、ダメだったのか?」 「・・・そう、だな・・・」 ・・・いつもはもっと、闊達なしゃべり方をするはずなのに、今日はやたらと歯切れが悪い。 さっき、こいつの姿を目にしたときによぎった嫌な予感が、胸に再来する・・・。 いったい、どうしたってんだ・・・? −−−−−−もしかして−−−−−−。 「・・・ガウリイ」 「なんだ?」 「お前、しばらく新大陸に行ってたんだって?」 「ああ、まぁ、なりゆきでな。 あっちは魔道なんてほとんどない状態だったから、『隔幻話』とかいうのを頼むことも出来なかったし、手紙だって出せなかったから・・・そっちに連絡できなかったんだが・・・」 「ここにきてすぐ、実家に手紙を出しただろう?」 「ああ。しばらくこの街に滞在するっていうのが決まったから、連絡をしておこうかと思って・・・」 「・・・あの手紙・・・あれは、真実か?」 「・・・・・・・・・ああ・・・・・・」 やはり。 こいつがわざわざここまできたのは・・・『光の剣』のことだったか・・・・・・。 ・・・オレは新大陸で、代々ガブリエフ家に伝わってきた伝説の剣−−−光の剣−−−を、当主である父に断り無く、元の持ち主へ返してしまった。 その件に関して、できるだけ事細かく詳細をしたためて、実家の父へと手紙を送り、向こうの返事を待っていたのだが・・・。 こいつは、その返事を直接オレに伝えにやって来た、ってコトなんだろう・・・。 「・・・本当にもう、光の剣はこの世界に存在しないんだな・・・」 「そうだ」 「・・・・・・そう、か」 オレの腰に視線を流しながら、ログシアは呟く。 そして、しばしの沈黙が落ちた。 ・・・そう、光の剣は、もう二度と、戻ってこないんだ・・・・・・。 慣れ親しんだ剣の重み。 それが無くなって、物足りなくもあり、不安でもあり・・・また、ホッとしているのも・・・事実だった。 ・・・あの剣は、これまで様々な事件を引き起こした。 それらのことを思いだすのは、正直気が重い。 衝動に駆られ、剣を捨てようとしたことさえあった。 ・・・まあ、それは結局成しえずに、逆にあの剣で自分が何を出来るのか考えるようになって・・・・・・そして、リナと出会い、リナと共に在るために、光の剣を使うようになった。 オレが、あの時特に執着を見せずにあの剣を手放せたのは、光の剣がこの世界での役目を終えたと・・・そして、本来の持ち主の元で、本来の役目を果たすときが来たのだと、確信できたから。 ・・・何よりも、『光の剣』という『形在る建て前』がなくとも、これから先を、リナと共に歩んでいけると・・・そう、信じられたから。 だから、オレは光の剣を返すことが出来たんだ。 確かに、リナと共にこれからを過ごしていくには、光の剣が無いのは不利かもしれない。 でもオレは、光の剣が無くとも『リナと共に在り続けられる』・・・そう、何故か確信しているんだ・・・・・・。 ・・・だが、それはオレの勝手な言い分であって・・・・・・果たして、父さんが・・・ガブリエフ家が、どんな結論を出したのか−−−−−−? 「ガウリイ」 「・・・なんだ?」 「ガブリエフ家は、今回の件に関するお前の行動、そして想いに対して、なんの異論も出さなかった」 「へ?」 ・・・なんの、異論も・・・無い・・・? 「呆けた声出すな。・・・だから、光の剣に関して、なんのお咎めも無しだとよ」 「な・なんで・・・」 「・・・お前なぁ、なんか処罰でも欲しかったのか? いいじゃないか、なんの問題も無く済んだんだから、万万歳だろう?」 「い・いや、それはそうだけど・・・」 「・・・要するに、お前の想いが家族に通じたって事だろ。喜べよ。 それに、あの剣は力が強い分、厄介事も引き寄せるからな・・・・・・元の持ち主が欲したならば、返してしまったほうがいい、って考えたところもあるみたいだぜ」 「そうか・・・・・・安心した」 「・・・ああでも、一つだけ」 「・・・・・・?」 「とりあえず、親戚連中に対しては、今まで通り、光の剣はお前が持っているって事にしておいて欲しいんだとさ」 「は?」 そ・そりゃ・・・どーゆー・・・? 父さんは、叔父貴達にこの話・・・してないってことなのか・・・? ・・・オレの困惑は顔に出たのだろう。 ログシアは、オレを見やって大きな溜め息を一つ吐いた。 「あのなぁ、お前のところの家族以外の親戚連中が、光の剣とその伝説に付随する権威に凝り固まってんのはお前も良く知ってんだろーが。 これで光の剣が無くなっちまったっつーのがバレたら、余計なゴタゴタが大勃発だぞ」 「・・・・・・・・・・・・」 ログシアのその言葉に、オレが知りうる限りの光の剣を巡る様々な厄介事が頭の中に甦る。 ・・・そうだ、あいつらが、あんなに身勝手な奴等じゃなかったら、オレは・・・オレの家族は・・・・!! 「お前だって、今更あいつらと揉めたくはないだろう?」 「・・・・・・ああ・・・」 「だから、だよ。お前が今でも光の剣を持ち歩いているってことにしときゃあ、ひとまずなんの問題も起こらない。 双方丸く収めておくためにも、お前にゃ一枚噛んでもらうって事だ。 今、厄介事が降りかかったら、お前の仲間も面倒ごとに巻き込んじまうだろうしな。 まぁ、親戚連中には折りを見て、穏便に事の次第を話すっていうことで・・・」 やれやれ、と肩を竦めるログシア。 だが、その瞳に浮かぶ感情は、オレを思いやってくれている優しい色で−−−。 「・・・そう、だな。それが一番だよな・・・。 わかった。その件に関しては承知したって、父さんに伝えておいてくれ」 「−−−−−−−−−」 「・・・ログシア?」 急に、ログシアの表情が厳しいものに変わる。 そして、オレの呼び掛けに返ってきた言葉は−−−−−− 「・・・悪いが、その伝言は引き受けられない」 「な・・・!?」 −−−−−−予想すらできなかった、ひどく暗い感情を、帯びていた。 なんだ・・・?どうしたっていうんだ・・・? ログシアの言葉を受けて、オレの胸にまたわけのわからない不安が到来する。 「・・・ログシア・・・?」 「だが、その伝言、伝える相手がリグシイだったら、受けてやる」 「兄さんだったら・・・?どういうことだ、ログシア!」 「・・・さっき言った提案全てが、リグシイが考え、決断したものだからだ。 だったら、お前の了承は、リグシイに伝えるべきものだろう?」 「な・・・ど・どうして・・・・・・兄さんが・・・? オレの手紙は、父さん宛だったはずだ・・・・・・父さんに・・・ガブリエフ家当主に、今回の件に関しての判断を、仰いだ手紙だった。 なのに、さっきのは、兄さんの決断だって・・・!?」 「・・・ああ。お前のあの手紙は、リウリス伯父さんの目には入っていない。 お前の手紙を読み、真実を知っているのは・・・リグシイとディリア、アグスタ伯母さんと・・・オレ、だけだ」 「兄さん・・・と義姉さん、母さんと・・・お前・・・『だけ』・・・!? ・・・確かに、いつもオレの手紙を読んでいるであろう人物だよ・・・でも、でもなんで、父さんは読んでいないんだっ!!?」 「・・・・・・・・・・・・」 「ログシアッ!!」 鋭い非難を込めたオレの言葉。 その言葉が含む力に負けたように、ログシアは一度目を伏せ−−−−−−そして、オレの肩に手を置いた。 「ログ・・・」 「いいか、ガウリイ。 オレが直接お前に会いに来た理由は、リグシイの・・・『新しいガブリエフ家当主』の決断をお前に伝えるためじゃない。 オレは−−−−−−−−−」 ・・・そして、続けられたログシアの言葉に、オレは全身から力が抜けたような虚脱感と、息もできなくなるほどの喪失感を味わった−−−−−−−−−。 |