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七月七日、七夕の日。 その日は朝から雨降りだった・・・。 綺麗に咲いた紫陽花を玄関に飾り、お祭りに着ていく浴衣も、昨日縫い上がった。 蒸し暑い雨を眺めながら、水都(みなと)は一人、溜め息を付いた。 窓辺にある、小さな笹飾り。 花屋で買う時、 『実家の方では笹なんかじゃなくて、竹に飾るのよ。』 と言ったら、信じて貰えなかった。 思い出す。 去年の里帰りついでの挨拶の時、庭に飾ってあった七夕飾り。 姉夫婦の子と一緒に、干城(たてき)が短冊を下げていた。 『これからも、ずっと一緒にいられますように』 大笑いされて、子供に教わった七夕の話。 ずっと一緒に居た所為で仕事をしなくなり、天の川のあちらとこちらに引き裂かれた牽牛と織姫。 本当にずっと一緒に居たいなら、そんな願いはするのんじゃに、と。 なのに、今年の飾りにも同じ願い事。 『怒って雨が降ったのかな・・・。』 雨空から部屋の中に視線を戻し、準備万端なそれを見るにつけ、溜め息は深くなるばかり。 「なーに、つまんなそうな顔して。」 「あ、お帰り。暑い中、ご苦労様。」 仕事から帰ってきた干城は、ネクタイを緩めながら水都に歩み寄り、ただいまのキスを落とす。 「・・・で? 何で溜め息なんか付いているのかな。」 脱いだスーツを水都に渡し、シャツを脱ぎながらバスルームに向かう。 その後を水都は、てとてととついて行く。 「・・・雨。」 「雨がなんだ?」 「お祭り・・・。」 パタンと閉めたドアを細く開けて、干城は水都を見た。 「一分。一分だけ待ってろよ。」 額に軽くキスをして、干城はきっかり一分でドアを開けた。 「で? 水都は雨でお祭りに行けないのが、そんなに残念なのか?」 わしわしと頭を拭いて、次いで体を拭う。 狭い脱衣所で、水都はボソボソと話続けた。 「・・・違うの。浴衣、折角縫い上がったのに・・・。」 「じゃ、くれ。」 「え?」 視線を下に向けていた水都は、干城の言葉に顔を上げた。 「折角縫ったんだろ。丁度、湯上りだしな。」 紺地に金魚の浴衣を着た水都。その膝枕で寛ぐ、甚平姿の干城。 ベージュ地に、少しだけ濃い色で控えめに描かれた金魚が、さり気なくお揃い。 エアコンをドライに合わせた部屋の中で、ゆるゆると団扇の風を送る妻の膝枕で、冷たい麦茶を飲む。 そんな、七夕の夜。 「・・・知ってるか? 七夕の晩に雨が降るのって、 彦星と織姫がラブラブなのを見られたくないからなんだとさ。」 「・・・そんなの、何処で聞いてきたのよ。」 「去年、お前の姉さんに。」 膝から見上げる目が、真っ直ぐ水都を見る。 その表情はニコニコと嬉しそうだ。 「だから、雨でもいいのさ。・・・浴衣姿の水都と、二人っきりでいられる。」 「で? 何で俺、甚平なの?」 浴衣姿の夫は格好良すぎて、お祭りに行けないと思ったのは、 顔を赤くして黙る、水都だけの内緒。
おわり |