真実のありか

後編

作:明美さん♪

「リナさん?うわ〜っ、お久しぶりです〜」
 いきなし、がしっと抱き付いてきた、女の子。――ミレイ。
 フツーの展開なら、さっきの反応はミレイの護符のものではない、となるのかもしれない。
 あたしも、あまり期待せずに来たのだが、しっかり、彼女は近くにいた。泊まっている宿の、二つ通りを隔てた場所にある、小さな宿屋である。
 ――魔法なんて使わなくても、すぐ見つけ出せたかもしんない。
「いつからこの町にいたんですか?全然気づきませんでしたよ!」
「昨日の夕方からよ」
「ここへは、なにか用事があって……?」
「別に……ただの通りすがり」
 矢継ぎ早に浴びせ掛けられる質問に答えながら、改めてミレイを眺める。
 どことなく違和感。最初会った時とは、どこか――違う?
「一ヶ月ぶりですね!」
「そうね」
 一緒に、そこの宿屋の小さな食堂のテーブルに付く。
 確かに、一ヶ月ぶりで髪型も少し変わったようだし、もちろん服装だって違う。しかし、そんな事ではない……。
「ミレイ、あなたのお兄さんが追い駆けて来てるわよ」
「え?……心配しないでって手紙残してきたのに……」
 ちょっぴし不満そうに呟く。
「近くの宿屋にいるわ。まだ寝てると思うけど――どうする?」
「…………」
 彼女は無言で、テーブルの上のコップを見る。
「『妹の心配してなにが悪い』って、言ってたわ」
「心配、しすぎなんですよ。いつも」
 そう言って、微かに苦笑した。
「少し離れてみたらどうかと思ったんですけど……」
「逆効果みたい。お酒のんで、暴れてたし…」
「そうですか」
「妹は、苦労するわよね」
 しみじみ、実感を込めて言うと、
「リナさんも、そうなんですか?」
 ミレイは、少し意外そうな顔をした。
 どーゆー意味よ……それは。
「そう言えば、ガウリイさんはどうしたんです?」
「宿で寝てるわ。って、なんでそこでガウリイが出て来るのよ!」
「えっと、その……心配しすぎってところが、兄と似てるかな〜って」
 それは言えてるかもしんない。
「まあ、あれは……自称保護者だし。でも、身内ってワケでもないけど……。
 ちょっと待って。話が微妙にズレてるみたいね」
 彼女の頬がぴくっと引きつる。
 どーやら、話を逸らそうとしていたらしい。
 あたしは、思わず深いため息をつく。
「あたし、ここに来る事は言ってないし、このまま逃げたいって言うんなら、まあ、それはそれでいーけど……」
 これは、他人が口を出す問題じゃない。
 そもそも、あたしはまだライナスの依頼を受けたわけではないのだ。――とは言え……。
「だけど、きっと、どこまででも追い駆けて来るわよ」
 あの兄ちゃんなら、絶対そうするに違いない。現に、今も追い駆けて来ているのだ。
「そうですよね。――わかりました。会って、説得します」
「そうした方がいいと思うわ」
 話が一段落するのを待っていたかのように、タイミングよく朝食が運ばれて来る。
 あたしは、お皿を抱えて食べようとして、ふと気づく。
 ミレイとは、奪い合いの食事にならないのだ。お皿を置き、ゆっくり食事を始める。
「リナさん……」
「なによ」
「静かですねー」
 笑いを含んだ声である。
「そうでもないでしょ。そこそこ、お客入ってるし…」
「そうじゃないですよー……。いえ、別に……いいですけどね」
 くすくす笑う彼女を見て、あたしはなんとなく違和感の原因がわかった気がした。
 彼女には、余裕があるのだ。言動の端々に。
 以前に会った時は、焦っていた。
 兄さんにバレないようにだったのだろう。しかし、それは、今も状況は同じなのだが。
 離れてみて、彼は変わらなかったが、彼女は――強くなったと言えるのかもしれない。
「強くなったみたいね」
 ほんの一ヶ月の間に。
「それは……よくわかりません。――でも、私、今まで、どれだけ周りに頼ってたか、よくわかったんです。一人だと、なにもかも、自分でしなければならないんですよね」
「それは、そうよね」
 はっきり自覚したと言うワケか――。
「今、例の護符の事を調べてるんです」
「護符の?」
「ええ。ここは、あの神官が昔住んでた場所なんだそうです。
 何かわかったら、リナさんにもお教えしますね」
「そう。――期待して、待ってるわよ」
「はい!」
 ――手伝ってくれと言わなかった。遺跡を『探検』した時と違って。
「任せてください♪」
 ミレイは胸を張って応える。
 笑顔が、可愛らしい。
 けど――ちょっぴし、胸が生意気だった……。


「……あああ、もう……つっかれたぁぁぁーーっ……」
 部屋に入って、ブーツも脱がずにベットに飛びこむ。
 彼女と話し込んで、宿に帰り付いたのは昼過ぎの事である。半日、お喋りをしていたワケだ。しかし、お喋りだけで疲れたわけではないのだが。
「よお。お帰り」
「え?」
 顔だけ持ち上げ声の方を眺めると、今朝、死に掛けだったガウリイが、ばっちり復活して、お茶なんぞ飲んでいたりする。
 そう言えば、ここで寝てたんだっけ……。
「……まだいたの?」
「おう!なんだかわからんが、留守番しといてやったぞ」
 んな事まで、頼んでないって。
 でも――ま、いっか……。
「カタはついたわよ」
「……なんの事だ?」
「ミレイを捜し出して、ライナスに会わせたの!」
「そーか……。それにしても、えらく疲れてるみたいだな。
 捜すのが、大変だったのか?」
「ううん。そーじゃなくって、あまりにも不毛な言い争いを見てたら、ちょっぴし疲れてきちゃって……」
「不毛な言い争い?」
「――隣の部屋で実物が見られるわよ」
 果てしなく平行線の話し合い。いや、話し合いですらない。
 二人とも、相手の話を聞いてないのだ。その点がよく似ている。流石に兄妹だ。
 さほど静かにしなくても、隣での言い争いが聞こえてくる。
 他の客に迷惑だってば……。
「遠慮しとく」
 彼は、そう言って肩をすくめた。
「そーね。あんたが仲裁できるとは思えないしね」
「おいおい。そーいうお前さんだって、できなかったんだろ?」
「できないわよっ!あの兄妹ってば、人の話、全っ然聞かないし!」
「誰かさんと一緒……」
「はいはい」
「…………」
 ガウリイが、なんだかちょっぴりさみしそーな顔で黙りこんだ。

「結局は、ミレイの言い分が通ると思うわ。
 この前もそうだったし」
 ――例の遺跡に入ると言う彼女を止めに来たはずなのに、ライナスは彼女に付きあって中まで入ったのだ。
 彼女の変化は、他人のあたしから見てもよくわかる。兄が気づかないワケはないだろう。他人だからこそわかる部分もあるとは思うけど……。
「一ヶ月見ない間に、すごく変わったのよ」
 お茶のあるテーブルにつき、あたしは言う。
 念の為に言っておくけど、単に、お茶が飲みたくなっただけであって、誰かがさみしそーにしていたからではない。
「誰が?あの兄ちゃんか?」
 ライナスも、最初会った時と性格違う、とゆーかまともではないけど。
「違う違う。ミレイの事。
 彼女が一人でも大丈夫だってのがわかれば、あの兄さんも帰るだろーし」
 言って、カップに注いだお茶を一口、口に含む。
 あれ?……これって……。
「そんなに簡単に引き下がるとは思えないけどなぁ」
 昨夜の事を思い出したのか、苦笑しつつ言う。
 そう思うのも無理はないけど。
「大丈夫だってば。
 それより、ぬるくない?このお茶」
「そーだな。帰ってきた事だし……メシでも食いに行かないか?」
 帰ってきた事だし?
「行かないのか、リナ?」
「んなワケないじゃない!」
 慌てて立ち上がり、そして……。
 次の瞬間――あたしとガウリイは先を争って、部屋を出たのだった。


 いい天気だった――。
 何故か――この兄妹と別れる時は朝で、しかも、どちらか片一方が不在である。
 今回は、妹が不在だ。
「世話になったな」
 町から出て街道を歩きながら、ライナスがぶっきらぼうに言い放つ。
 街道は、この先で二つに別れている。
 ライナスの住んでいる町へと続く道と、あたし達が目指す方角へ進む道――と言っても特別理由があって選んだ道ではないのだが……。
「まあ、世話って言っても何もしてないけどな」
「それは、あんただけよ」
 のほほんと言うガウリイに、あたしはツッコミをいれる。
「いや――前回の事も含めて言わせてもらうとだな」
 ライナスは道のど真ん中で立ち止まり、あたし達に真正面から向い、きっぱりと言った。
「遺跡へは、あんた達がいなければ、妹は入ろうとしなかったかもしれない!
 あそこに行きさえしなければ、あの護符も手に入らなかったし、今回の家出もなかった筈だ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「だが……それは、あくまで結果論だ。妹が自立したがっていたのは、知っていたんだ……。俺には、あの子が一歩踏み出す為の手助けはできなかった」
 ライナスは、うな垂れるように頭を下げた。
「だから――世話になった――」

 ホントに、いい天気だった。
 柔らかな風が街道を吹き抜け、太陽が優しく銀髪の後姿を照らしている。
「――結局、彼女の言い分が通ったでしょ?」
 遠ざかって行く背中を見送って、あたしは傍らに立つガウリイに言う。
「わざわざ迎えに来たのにな、あいつ」
 彼は、ライナスを同情の視線で見送っている。
「ミレイが一人でいる、って言ってるんだから、しょーがないじゃないの」
 自分で手助けが入らないような、入る余地のないような状況を作り出した。
 彼女は、一人で歩いて行くと決めたのだ。――自分が強くなる為に。
 それに、もしかしたらミレイのわがままに兄の方も振り回されてたのかもしれない。
 ――あたしは、彼女とは少し違う。
 前は、一人で歩いていたけど。
「さて、と――そろそろ行きましょうか!」
 ぼけっと突っ立ったままでいるガウリイに声をかける。
 なにを考えてるのか時々わからないけど、信頼できる彼と、道を歩く為に――。



おわり


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