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「随分好き勝手言ってくれたものね」 金の青年が闇に消え、グラスがゆっくりと傾けられて中身がなくなる。 それだけの時間が過ぎた頃。 一人の、銀の青年の背後に座っていた少女が初めて声をかけてきた。 「そう? 俺にしては的を射た、結構すばらしい意見だったと思ってるけど?」 後ろを振り向かずに、青年は肩を震わせた。 少女があきれ、半ばは怒り、青年に強い視線をむけているのが気配でわかる。 「あれのどこが? あんた、あたしを馬鹿にしてんの?」 ガタリ、と椅子をひく音。 後ろにいた紅蓮の気配が、銀の死神の前にたつ。 小柄で華奢。 彼が言ったとおりの体躯。 だが、纏う気配までは言ってなかった。 それでも、この人物が彼を変えたに違いない、そう、思わせるだけの存在感。 これは・・・浄化をかねる業火だ。 「おや? 君まで俺の意見を曲解してしまうの? つれないねー、せっかくいろいろとあいつの普段気がつかない欠点を指摘してやったのに」 おにーさんぐれちゃうなー。 よよよ、と泣き崩れるふりをして、片手を顔にあてる。 その態度こそふざけているのだが、彼女はそんなことを気にしているわけではなかった。 「別に、あいつが頭を使わないのは今にはじまったことじゃないわ。 そんなの、あんたに言われるまでもない」 「それは信頼?」 「長年の観察から培った確信よ」 「ふーん。 でも、俺、嘘は言ってないよ。 あいつがあんたの傍にいるデメリット。 考えたことはないわけじゃーないでしょ? あんたはあいつと違って、理性で動く人間っぽそうだし」 「確かに、あいつは本能ね」 「でしょー」 「でも」 すっと伸ばされた細い指。 ためらいもなく伸ばされたそれは、彼の指の間でまだもてあそばれていた金貨を摘み上げる。 「間違った判断をすることなんて、絶対ないのよ。 特に、あたしに関しては」 不敵に彩られた笑みは、裁きの女神によく似合う。 やれやれ、これのどこが女の子だって? 苛烈にして、誰の目をひきつけて離さない炎は、決して子供と称されるものに宿るものではない。 それすらも、彼は忘れてしまったのだろうか。 「あーあ、せっかくあいつが無い金くれたのにー」 「自業自得でしょ。 それに、これは正当なお金よ。 なにせ、これからあいつに解毒しなきゃいけないし」 「あ、気がついてた?」 「当たり前じゃない。 あいつが、あたしの気配に気がつかない、それ自体が既に異常よ」 「それはそれは・・・」 ガウリイをここで見つけたのは偶然。 魔法が使えない日なので、おおっぴらに盗賊いぢめに精をだすことが出来ないのをわかっている彼がいなくなったので、半分あてつけで入った酒場。 そこで、何故か騒動を起こしている彼を見つけた。 先に気がついたのはこの男。 リナが傍にこれるように、二度もガウリイに手をだした。 ・・・・気配を撹乱するために。 「無味無臭の、感覚麻痺の薬かしら? あんたは使い慣れて効かないみたいだけど。 あたしは小さい頃から、そういうのには慣れるよう訓練を受けたから平気。」 「あんたもねー、それちょっと普通じゃないって。 これ、結構珍しい薬なのにさ。 でも、よかったでしょ、俺がこれつかったせいで俺たちのおはなしを聞けてさ」 「人ごとだと面白がってる戯言をね」 「それはひどい。 俺は誠心誠意あいつを説得したのに〜」 「あたしじゃなくて、あんたと仕事を組むように?」 「誰だって、『せめて今度は足をひっぱるよーな馬鹿なやつらにあたらんように』って仕事のたびに願うより、同レベルのやつが欲しいでしょ?」 だから、あいつ俺にくれない? 本気のダークグリーンがリナの赤い瞳と交わった。 先にほころんだのは、意外にも女のほうだった。 「まあね。 そこらへんは同感だわ。 でもね、あたしも欲深いのよ。 一度手に入れたものを離す気なんかさらさらないわ」 「絶対に?」 「そう、絶対に。」 「・・・・・・じゃあ、あきらめるしかないか」 「そうして」 リナはゆっくりとお金を袋に戻し、そして、もう一度彼にはじいた。 あの、金の青年がそうしたように。 「あれえ?」 「あいつの分は返してもらったわ。 それは、あたしの分。 どうやら、これからの展開に花を添えてくれたみたいだしね」 「そりゃどうも」 シリウスから苦笑がもれた。 再び、否、新しく彼の掌におさまった金貨。 温もりの欠片もない。 「じゃ、あたしも帰るわ。 今ごろきっと、あいつがあたしを探してうろうろしてるだろうし? 彼を心配させちゃまずいでしょ?」 「そうだね」 「あ、そうそう。 最後に一つだけ言っておくわ」 リナの顔がシリウスの耳元に近づき、何事かを囁く。 銀の青年は大きく目を開き、いたずらっぽく彼と顔を正面から見合わせた少女に頷いた。 カララン。 音が鳴る。 「確かに、あれは手におえないな〜。 なーんか、少しだけあいつが女の子扱いしていたのが分かる気がしてきた」 女の子、でさえほんの少しも目を離せない。 まして、それが惚れたと自覚して、女とわかったらどうなることか?
「一生、振り回されること決定だ」 彼女が最後に囁いた言葉。 『デメリットなんて、あいつを全部あたしのものにしてしまえばメリットよ』 「あー、みっともなーい」 傭兵でも、かなり恐れられる部類に入る彼が演じたがらにもない役割。 人それを『恋のキューピット』という。 |