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「でもそうすると、ガウリイ。 お前がくっついている女になりそこねさせてる女の子、そっちのメリットはなんなわけ?」 一通りつつき終わったあと、シリウスが食後のお茶と称して別の酒を封切った。 今自分が飲んでいるのと違い、綺麗な赤い色をしているそれに、なんとなく目を奪われながらガウリイは首を捻った。 「なんだ、その『女になりそこねさせている女の子』ってのは?」 「言葉どおりだ。 もう旅して二年、っていったけど、それって自分ひとりで旅していたところを、どうせ幼く見えたんで放っておけなくてちょっかいだしたんだろ? まあ、それにしても珍しいことは置いておいて。 お前が連れを買って出たからには、その子は一人だったんだろうし、一人旅していたからにはそれなりの年齢だったんだろう? なら、現在二十歳以上ってことはなくても、少なくとも子供の年齢ではないな。 けど、お前の口調から、そいつのことを女として扱っているようには思えない。」 「お前の口調って、オレ、そんなにあいつのことしゃべってないだろうが」 「女、として扱っていたら、お前は俺にその子のことをしゃべったりしないだろ? 俺が手をださないように、もうちょっと気を使った言い回しをするはずだ。 本当に女の子と思っているのか、それとも無意識にブレーキかけてるのかは知らないけど?」 「あいつは・・・本当に『女の子』だよ。 少なくとも、性的な成熟って意味ではな」 「ま、それはいいさ。 で、最初の質問に戻るけど、その子のメリットは?」 「メリットがなければ、ともに旅はしないか?」 「少なくとも、常識ではな」 ガウリイに、ふと、女の子の日のために宿屋で不貞寝をしている少女が浮かんだ。 彼女の、自分のそばにいるメリット。 「危険からの保護、だろうな」 「それは、いわゆる外敵に対してということか?」 「ああ。 あいつは、・・・・ちょっと人離れした力の持ち主のせいで、やっかいなもんにまで付きまとわれている。 オレなら、あいつの背中を守ってやれる。 どうやったって、魔導師として避けて通れない呪文を唱えたりするのに必要な時間をかせいでやれる。」 「狙われるのは、力のせいだけか?」 「いや・・・・あれはごたごたに首をつっこむのが好きな性格上のこともあるな」 「・・・・なら、それはデメリットだろ?」 「・・・・・・・・・・・なんでそうなる?」 ガウリイは、あまりにも意外なことを聞き、蒼い目を細めた。 「オレが傍で守るってことがデメリット、だと?」 「まーまーまー、そう怒りモードに入るなって」 剣に手をかけそうなガウリイを、シリウスはグラスに酒を満たしてやることで逸らした。 トクトクと、赤い液体が、シリウスのグラスとガウリイのグラスに注がれていく。 「んじゃあまず、お前が傍にいることの、彼女へのデメリットをあげていこう」 かんぱーい、とふざけた口調でいいながら、グラスを呷るシリウス。 ガウリイは、手もつけない。 「まずは、女の幸せについて、だ。」 「・・・・・おい」 「怒るなって。 一応お前にもわかるようにちゃんと理論だててやるから。 さて、女の幸せは、一般にはどう思われてる?」 「玉の輿」 きっぱりはっきりガウリイが言い切った。 常日頃一緒にいる少女が言っているので答えはあっさりでてくる。 「・・・・・・・まあ、それは間違ってないが、あってもいない。 よーするに、女にとって幸せなのは、いい男との結婚だ。 この場合のいい男ってのは、女が惚れた男ってことな。 で、女ってのは顔のいい男、甲斐性のある男、強い男に惚れる傾向にある。 ガウリイ、お前はその三つともにあてはまるよな。 外見は言うに及ばず剣の腕は一流。甲斐性に関しても、お前ほどの腕があればあっという間に稼げるんだから問題なし。 つまり、女が惚れる要素を全部そろえている」 ガウリイに、否定の余地はない。 確かに、彼はそういった意味で、女にほれられることが多い。 「それがまず彼女のデメリット」 「は?!」 誉められたのではなかったのか?! 疑問符が宙を舞った。 「おい、シリウス」 「だから聞けって。 つまり、お前が全部そろえているがゆえに、お前以外の男は彼女にとっては惚れるに値しない男になってしまう。 ・・・・こういえばわかるか?」 「なんとなく」 つまり、ガウリイが傍にいるかぎり、リナが他の男に惚れる可能性は低くなるということだろう。 「ようは、リナはオレ以外の男を男として見ることが出来ないために、結婚できない。『女の幸せ』はつかめないってことか?」 「あ、お前の相棒リナって言うのか」 ギクリ。 ガウリイの体が震えた。 「お前を除いては恋愛も出来ない。これはリッパなデメリットだ。」 「・・・・・・」 「それから次。 彼女は強い敵に狙われているっていっていたが、お前と会う前からそんなふうだったのか?」 「いや・・・多分、違う」 「彼女は、勝てる敵、勝てない敵。どうしても闘わなくてはいけない理由がある、あるいは巻き込まれる、そんなとき以外にもむやみやたらと首をつっこむ理性の欠片もない女の子か?」 「それも違う。 あいつはオレなんか及びもよらないほど理性的だ」 そう。 リナは、確かに強い敵に見込まれることは多多あるが、普段、分が悪いと思っているやつに喧嘩を売りまくる人間ではない。 ・・・・無意識に神経を逆なですることはあるにしても。 「お前が彼女のそばにいる。 それは戦闘能力の向上を意味する。 彼女は喧嘩を売れる範囲が広がるってことだな。 お前がいなければ用心のため手をださなかったかもしれないことまで、彼女は無意識に安心して踏み込める。 総合的にあがったといっても、危険な度数が下がるわけでもない。 常に命の危機につっこむ。 これが二つ目のデメリット」 「オレがいなければ少しは自重するかもしれない、だな」 「そうだ。 それから聞き忘れたが、実際どうみえるかどうかは別として、その子は何歳なんだ?」 「・・・・・十七か、八だ」 「やっぱりな・・・デメリット三つ目。 お前の勝手な認識による、彼女の性的な成熟の迫害」 「オレが子ども扱いして、野郎の視線から守るから、自然と身につくそういうことが阻害される?」 「少しは分かってるみたいだな♪ 簡潔にいえばそういうこと。 女のそういうことに関する認識なんて、周りの態度なんかが大きいんだ。それを学ぶ機会をお前がとことんつぶしている。 どうせ、酒場なんてとこに行ったら、始終傍にくっついて、いらん視線を投げかけてくる奴らなんて無言で撃退してるんだろ?近づくことさえ許さないってな」 「まるで見てきたかのような解説どうも」 「どういたしまして♪ そんで、四つ目」 「・・・・まだあるのか・・・・」 さすがのガウリイでさえ、こう理詰めでいろいろリナの傍にいる『彼女のデメリット』は聞きたくなかった。 「あるんだよ♪ ・・・・・・裏の世界を知っている傭兵がそばにいること」 「・・・・・それって、オレが傍にいることそれ自体がデメリットって聞こえるんだが?」 「そうともいえるな。 傭兵は、人の恨みを買う仕事だ。 誰に付けねらわれているのかわからない。 あ、これは、彼女もそういう立場だから関係ないってこととは別問題だからな。 『お前』が『傭兵』として買った恨みの関係が常につきまとうってこと。 それから、もしかしたら女の立場としてはこっちのほうが重要かもしれないが・・・・『過去の女問題』も傭兵は引きずっているってこと。 普通に暮らしている男だって、そんなもんあるかもしれないが、夜毎違う女のベットで過ごしていた過去をもち、あきたら捨てるが当然だった男はあんまないでしょ? 幸せにしてやりたい惚れた女がベットにいても、抱いたら同じに見えた、なんてことになったらどうするよ?目も当てらんないぞ〜」 「惚れた女だったら、違うだろう?」 「どんな点で?感情があるから一から全部違うって?」 「・・・そんなもん、オレに聞くな」 「ってことは、まだそういう関係じゃないんだろ。 よかったじゃないか、お互い。いつでも別れられるだろ、それなら。 これだけ彼女のほうにはデメリットがあるんだ。 それを分かった上でその『リナ』って子の傍にいるほどお前も愚か者じゃないだろ?」 「あいつと・・・別れる?」 「そうそう。 メリット・デメリットが一致していない旅のつれなんて、いても迷惑なだけでしょ。 例え、お互いがそうと気がついていなくってもね。 それとも何? お前、彼女に負担を強いるとわかっていても尚一緒にいたい理由でもあんの? だってたかが『女の子』でしかないんだろう?」 『女の子』。 確かにリナは『女の子』だ。 別に将来を誓った恋人でもなければ、一生傍にいることを強制された関係でもない。 『旅のつれ』という『他人』。 今日明日にでも簡単に別れられる、ほんの一時のつながり。 そう、なのだろうか。 改めて考えることなんてなかった彼女の自分といることによるれっきとした『デメリット』。 正確には、考える必要もなく当たり前に一緒にいたから。 誰といるより居心地が良くて、笑って、怒って、・・・・温かい気持ちになれて、まるで、自分が新しく構成されていくような気になっていた。 それなのに、彼女と別れる? 嫌だ。 はっきりとどうとはいえないが、絶対に嫌だ。 それが本当にリナのためなることでも。 絶対に。 しかし。 「別れたら、リナは、お前が言った『オレといる場合のリナのデメリット』は解消するのか?」 「さあね。 それこそ彼女次第だろ? いままでお前といたことには変わりないんだ。 スパッと全部忘れて新しい『恋人』とともに旅することは出来ないだろうね。 ま、傭兵といるデメリット、ぐらいはなくなるけど?」 「『恋人』?」 「え、何お前。 そんなことも想像つかないの?」 嘘だろー、これが本当にあの凄腕の傭兵かよー。 シリウスが心底あきれてつきあってらんない、のジェスチャーをした。 「彼女、もういい年なんだろ? そーんな実力もある、しかも結構いい女にコナかけて一緒にいようっていうのが何の下心もなしに近づいてくる男なわけないだろ? そんで、彼女のほうも、今まで自分を守ってくれた男を忘れて違う男を受け入れるんだ。 旅は四六時中一緒だからな。心を許せる相手じゃなけりゃ短期間ならともかく、長い時間は無理だろ。 ってことは、相手は恋人に決定。 なんか質問は?」 大いにある。 何故、彼女の隣にいる人物が、恋人になる? 女の場合だってあるかもしれないじゃないか? 男だって、決定したわけじゃないじゃないか? しかも、そいつがあいつに認められる? 恋人に・・・なる? あの細い肩を抱くのか? 壊れそうなほど細い体を抱きしめるのか? 柔らかい頬に触れて、綺麗な赤い、勝気な瞳を見つめて、緩やかなカーブを描く、甘い朱唇に己を重ねるのか・・・・? そんなこと 「許せるはずないだろ?」 「どういった権利をもって?」 シリウスの言葉は確認、そして確信だった。 そして、ガウリイにそれに答えるものは最初からあったのだ。 「惚れた女を自分のものにしておきたいのは当然の権利だろ?」 言うなり剣を掴み、一枚の硬貨をはじいた。 それは狙いあやまたず、シリウスの手の中に落ちていく。 「授業料だ」 「それはまたどうも」 落ちたものの色は金。 ここの支払いを差し引いても残る額はかなりのものだ。 「また飲もうねー」 ひらひらとシリウスの手が振られ、それとともに二つの指でつかまれたものがキラキラ反射する。 鮮やかな色合いが、濁った屋内を払拭していく。 しかし、彼にはもうここには二度と用はない。 「絶対ないな。 オレはいつもリナといるからな。」 恋人を、お前みたいな危険人物に近づけるわけないだろ? 暗にささやかれた決定事項。 どうやら、彼はおそまきながら手に入れることにしたらしい。 ここまでやってようやく彼女が自分のなんたるかに気がついた、というのは、かなり遅まきに過ぎるような気がしないでもないが。 カララン。 酒場の扉につけられたベルが鳴る。 金の光を纏った長身の青年が、闇の中に消えていく。 「・・・・・健闘を祈りましょ」 銀の青年がグラスをもちあげ、ただ一人祝杯をあげた。 おそらく、二度とは会わないであろう友人に。 |