真実の力

その2

作:明美さん♪

 ぽかぽかと暖かい陽気の中。爽やかなそよ風にマントをなびかせながら、雲一つない空の下、なだらかな山道を歩く。
 地図によると、山頂へと続く道をしばらく行った後、脇道にそれるようになる。しかし、道のりは困難なものではないようだ。かえって、なにもなくて退屈ですらある。
 あたしは地図を片手に、あくびをかみ殺す。
 ――こーゆー時、盗賊が出てきて退屈しのぎになって、ついでに有り金置いてってくれるといいのだが……。
 しかし、である。この山、草は生い茂っているが、木があまりない。たまにあっても背の低い木ばかりだ。これでは、盗賊連中は隠れようがない。

「探検日和ですね♪」
 お菓子を詰めたザックを背負って、汗を拭きつつミレイが言う。
 『わくわくする』と言って、昨日の夜はなかなか寝られなかったようだが、彼女、わりと元気である。
「探検って……。そうね、いい天気だし」
 退屈だと言うのはおくびにも出さず答え、あたしは遅れがちなガウリイを振り返る。  背負った荷物で、長身の彼がさらに長身に見える。荷物の中身は、もちろん昼の弁当だ。フツーの人よりちょっとばかし多めの弁当は、しかし、彼にとってはそれほど重くないはずである。
「自分だけ手ぶらなんて、ずるいぞ!リナぁっ!」
「はいはい。頑張ってねガウリイ」
 喚くガウリイに、ひらひらと手を振って、にっこりとあたし。
「大丈夫でしょうか、ガウリイさん?」
「あんぐらい、平気よ。なんなら、ミレイ手伝ってみる?」
「え、遠慮しときます。それより、リナさん……」
 ミレイが、何気ない口調で続ける。
「昨日、なに話してたんですか?」
「へ?」
「夜、私が散歩に行ってた時です」
「あ、あれね。あれは……」
 まさか、面と向って彼女の話をあまり信用してないとは――。
「あまり……信じられない話だっていうのは、わかってるんです。ただ――こうでもしないと――。
 …………身近にいる人が凄い人だと……。これでも、勉強して努力してるんですけど……やっぱり追いつかなくって……」
 どこか空虚な瞳で青空を眺めながら、ミレイがぼそっと呟く。
「凄い人……って?」
「――あ。私、なにか言いました?」
 夢から醒めたように、驚いた顔であたしを見る彼女。
「まあね…凄い人とかなんとか言ってたわよ」
「………………」
「ああ、ムリに言わなくてもいいって。――確かにね、『真実の力』ってのは無条件に信じられる話じゃないけど――」
 ミレイと喋っている内にガウリイが追いついてきて、あたしの横に並ぶ。
「あなたの事は、信用できると思うわ」
「……リナさんって……いい人なんですね……」
 ミレイの顔が、ゆっくりと笑顔になる。
 それって、買いかぶり過ぎだってば。
「そーでもないわよ。あたしは、あたしの人を見る目を信じてるだけだから。
 それに、もしかしたらお宝が手に入るかもしんないし……」
「こいつは、こういうヤツなんだ」
 ガウリイが、ぽんぽんとあたしの頭を叩く。
「ちょっとガウリイ!こういうって、どーゆー意味よ」
「……わかりました」
 くすくす笑いながらミレイ。
「あたしには、わかんないわよ!」
 ――ただ一つだけ、わかった気がする――。
 彼女も、追いつきたくてもどうしても追いつけない人がいる。
 高く澄んだ青い空を見上げて――ふと、思う。
 遠い故郷。しばらく、帰ってない。
 空は、故郷にも繋がっている。
「どうかしたのか?リナ?」
「ううん。なんでもない」
 視線を前に戻し、一歩、歩みを進める。
 ――あたしは、郷里の姉ちゃんに、少しでも追いつけたんだろうか……。
 世界を見て、ホントに強くなったんだろうか……――。

 ――彼女は、数年前のあたしと似ているのかもしれない。
 数年前――姉ちゃんのように強くなりたいと。追いつこうと。がむしゃらに、越えようとしていた、子供の頃のあたしに。


 昼食を食べて、しばらく歩き――。
 そこには、迷う事なくあっさりと辿り着いた。
 わさわさと茂った草を踏みしめて、洞窟みたいな、その入り口に。
 しかし――ぽっかりと口を開けたそこに差し掛かった時、ひとけのなかった背後に、不意に気配が生まれ出る。
 まだ、気配に気づいてないらしい彼女に注意を促そうとする。と――。

「ミレイ!」
 声が響く。
 それは、あたしの声でもガウリイの声でもない。まだ若い男の声。
「ミレイ。やっぱりここにいたのか」
 振り向くと、彼女と同じ銀の髪の魔道士姿の青年が駆け寄ってくる。顔は、まあまあハンサムの部類に入れてもいーかな、というくらいの容貌である。真っ直ぐ、彼女の元に駆け寄りその肩をがっしり掴む。
「に、兄さん?どうしてここが……?」
 悪戯を見つけられた子供のようにばつの悪い顔で、ミレイが言う。
 彼女にちょっと似てるような気がしたが、やはり兄妹らしい。
「持ち出した資料がどれかわかれば、追うことは簡単だ。
 ミレイ、危険な事はやめてすぐ家に戻れ」
「え?でも、せっかくここまで来たのに」
「駄目だ。家に戻れ」
 彼女の兄さんって人は、かなり強引な性格らしい。
「……危ないって決まってるワケでもないでしょーが……」
「リナ……」
 ガウリイがあたしのマントを引っ張る。
「これは失礼。身内のごたごたをお見せしまして。
 で、一体、あなたがたは……?」
 始めてあたし達に向き直り、慇懃に礼をする。
 どこかの神官を思い出す丁寧さではある。丁寧ではあるが、しかし強引な態度と、レディを目の前に名乗らないってのがあんましいい感じを受けない。
 相手の名前を知りたい時は、まず自分が名乗るって常識を知らないんだろーか。
「そっちの妹さんに聞けばわかるわ」
「ほう……」
 片眉を上げる、彼女の兄さんとか言う男。
「お手伝いを頼んだの、兄さん。こちらはリナさんとガウリイさん。
 ――紹介が遅れましたが、兄のライナスです」
 ミレイが慌てて、間に入って言う。
「手伝い?どう言う事だ」
 怪訝な顔で、いかにも信用してません、というオーラが全身から漂いまくっている。
 この男、頭はいいのかもしれないが、他人を全く信用しないタイプらしい。
 ――ったく。人生、楽しく送れないわよ。
「手伝いってほどでもないわ。彼女の話が面白そうだったから、ちょこっと付き合ってるだけよ」
「へー、そうだったのか。ピクニックじゃなかったんだな」
 ガウリイが、大ボケ発言をする……。
「って、あんたね〜〜。やっぱし覚えてないんじゃないのっ!」
 昨日、あんだけ説明したってゆーのに!
「ま、まて、リナ!その石でなにをするつもりだ!?」
「これで、その空っぽの頭に刺激を与えんのよ!」
「おいっ!死んだらどーするんだ!」
 死なない程度に、加減するし。
「だいじょーぶよ!……多分っ!」
「たぶんって……なんだー」
 山の中で、追い駆けっこを始めるあたしとガウリイ。

「……手伝い……になるのか?あの二人は……」
「ええっと……た、多分……」
 あたしの良すぎる耳には、兄妹の会話がきっちり届いていた。

「さてと。話が決まったところで、行きましょうか」
「どう、決まった?」
 こめかみ辺りを押さえつつ、静かな声でツッコミを入れてくる、ライナス。
 太陽は、てっぺんより傾きつつある。『探検』を早く済ませないと、野宿って事になりかねない。
「ミレイとあたし達が『探検』してくるのよ」
「はい!行きましょう!」
 元気に、ペースを戻してきたミレイ。
「………………」
 無言で頭に出来たコブを撫でつつ、それでも一応頷くガウリイ。
「無条件には賛成出来ない、俺としては――」
「お願い、兄さん。これだけは、譲れないの!私……私の決めたように一人で歩いてみたいのよ」
 ミレイは瞳をうるませつつ、ライナスにせまる。
「一人でと言っても、結局手伝ってもらうんだろう?
 ミレイの魂胆はわかっている。楽して得られるものはないんだぞ」
「わかってる。……でも。もう、行くって決めたの。兄さんには頼らないっ!」
 ――どっちの言いたい事も、わかる気がするし……。
「ま、どーでもいいけど」
 果てしなく不毛な言い合いになりそうなのを制して、あたしは声をかける。
「どうすんの?どっちにしても、あたしは行くわよ?」
「絶対行きます、私も!置いて行かないでください!」
「――そうか。それなら、俺は勝手に付いて行こう。見届けるだけでもする義務がある」
 勢い込んで言うミレイと、微かに苦虫を噛み潰したよーな表情で言う、ライナス。
 やっぱし、そーなったか……。
「どっかのお節介な誰かが付いてくるって言ってるけど、手も口も出さないって言うならいーんじゃない?」
「……はい。わかりました」
 ミレイは頷いたが、あたしにはあまり納得してるよーには見えなかった。



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