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「真実の力?」 「はい!」 それで説明はすんだとばかりに、えらく期待に満ちたキラキラした眼差しであたしを見つめる女の子。 まあ、女の子――と言っても、あたしより2,3才ほど下だろうか。どこぞの正義かぶれのお姫様をほーふつとさせる元気のいい、なかなか可愛らしい女の子である。一応、魔道士だが一目でわかる、まだまだ駆け出しのひよっこだ。 彼女、あたしの名前を確かめるより前に、自分からミレイと名乗って、あたしの隣の椅子に腰掛けた。 「で、それがどうしたの?」 言いながら、マフィンを一口かじる。 そう、あたし達は食後のオヤツの途中なのだ。と言っても、ほとんど終わりかけだけど。 「どうしたの?じゃないですよ。真に、強い力――。リナさんだったら……ええっと、いろいろと、あのぉ…すっごい噂を聞いてますし。それを持ってるでしょう?」 その『いろいろとすっごい噂』ってのは、なによ……。 「そーか……すっごい噂かぁ…」 しみじみと意味ありげに頷くガウリイ。 なにが言いたいのかはわかるので、とりあえずかるーく向こう脛を蹴っておく。(げしっ) 「ぐっ…」 「ガウリイ、大丈夫?そーやって慌てて食べるから喉に詰まるのよ」 にっこり笑って、あたし。 彼の目は、思いっきし違うと言っているが、口には出してこない。 ――うんうん。ちっとは学習できたみたいね。ま、痛くてそれどころではないのかもしんないけど。 「……えっと……あの……」 何故か頬に一筋の汗を流しながら、心持ち身を引くミレイ。 こっそりしたつもりが気づかれたんだろーか……? 「そうね……。あなたの言う、その、真に強い力って定義はよくわかんないけど、ある程度は強い魔力を持ってると思うわ」 控えめな表現だが、世の中には常識で計り知れないほど、とんでもなく強力な人間がいるのだ。――コイツほんとに人間か?と思うよーなのが……。 「でもね、いくら強力な魔法が使えたとしても、それを実践でどう使うによって効果が変わるのよ。例えば……」 「それはわかってます!私、講義を聴きに来たんじゃなくて……。 それより、コレ見てください。協会の図書室で見つけたんです」 協会、と言うのは、この町の中心近くにある魔道士協会のことだろう。さっき覗いた時には、静かであまり活気がないようだったけど……。 あたしは話の腰を折られた事に多少むっとしながらも、ミレイが懐から出した紙を覗き込む。 少々変色した紙と、その後ろにまだ真新しい紙。 まず手前にある古ぼけた紙のほうに目を通す。そこに書かれているのは――。 「なんだ?これ、子供の落書きか?」 お約束のボケは無視する。 「地図と、これは暗号……?」 「はい、そうです(はあと)」 いや……なにもわざわざ(はあと)付けなくても……。 紙には簡単な地図。その下には、文字ではなく記号のようなものが意味ありげに並んでいる。――ま、実際、意味はあるんだろうけど。ガウリイの言うように、子供の落書きに見えなくもない。 「これを解読したいの?」 「いえ、それは読めました」 と、やたら得意そうに胸を張る。 「へえ……」 ミレイって頭いいんだ。 暗号と一口で言っても、それを解読するにはそれなりに知識が必要だし、手間もかかる。それにこの文章は長くない。短い文章を解読するのは、その暗号が作られた法則を見つけるのが困難なものなのだ。 「解読表がオマケで付いてたんです♪」 「あ……そう…」 ……自慢げに言う事じゃないって……それ。 『かの地に辿り着きし者 真実の力を得られるであろう』 新しい紙の方に、その文句が書かれている。 ミレイの筆跡だろう。文字一つ一つに、お花模様とか星さんとかついててもおかしくないよーな、可愛いらしい文字である。 あたしは、ここから歩いて半日程の距離にある例の紙に書いてあった場所へ、ミレイと一緒に行く事にしていた。あまり確実性のない話ではあるが、少しばかり興味を覚えない事もない。ちょっとばかしヒマだから、付き合ってみようと思ったってのもある。それに、ちょっぴり彼女の事が心配でもある。 しかし――。 「真実の力ねえ」 怪しさ大爆発。 「わくわくするでしょう?」 ピクニックにでも行くように、嬉しそうに言うミレイ。大きめのザックにいっしょーけんめい詰め込んでいるのは、どう見てもお菓子以外の何物にも見えない。 あれから近くの宿屋に落ち着いて、『探検の準備(ミレイ談)』を始めたのだが……。 「わくわくって……ピクニックに行くんじゃないのよ? お菓子なんて要らないってば。お弁当でも持って行けばいいじゃない」 「もちろんお弁当も持って行きます。これは、リナさん用です」 「あたし用?」 「道中でお腹空いて、攻撃呪文唱えるとマズイですから」 「あ・ん・た・ね〜〜」 「だ、だって噂では、なにか食べるものがないとキレて竜破斬(ドラグ・スレイブ)連発するって……」 あたしは食欲魔人かっ!! 「いくらなんでもそこまでしないわっ!」 「い、いえ……あの、私も食べたいですから……」 「まあ、いいわ。その変わり、ちゃんと自分で持つのよ」 「わ、わかってますぅ」 引きつった笑みを浮かべて、こくこく頷く彼女。 どこで聞いた噂か知らないが、そのまま鵜呑みにするのは間違いである。それが、彼女にもわかったらしい。これも、人生勉強とゆーやつである。 ちょっと違うよーな気もするけど、きっと気のせいよ。うん。 あたしはベットに寝転んで、改めて、ミレイが魔道士協会から持ち出したと言う紙を見る。何度見ても、地図と暗号しか書かれていない。これだけでは、なんの判断も出来ないのだが……。 こんこんっ 部屋の中が静かになるのを待っていたかのようなタイミングで、控えめなノックの音が響く。 「は〜い」 ミレイが大事に抱えていたザックを降ろし、とことこっと歩くのが視界の隅にうつる。 「よう!リナは?」 「いますよ」 目をやると、ドアの所で突っ立っているガウリイ。 「なに?どしたの」 あたしが聞くと、何故か部屋の入り口で突っ立ったまま頬を掻き、 「いや……その……リナの顔が見えないと、淋しいと言うか……」 「え……?」 あたしはベットの角に腰掛けたまま、固まってしまう。 今、なんかとんでもない事を聞いたよーな気がする。不覚にも思いっきし顔が赤くなったのが、自分でもよくわかった。 「……あ、あの、私っ!散歩に行ってきますね」 あたしとガウリイの顔を見比べていたミレイが、叫んでドアを出ていってしまう。 「ごゆっくり〜〜(はあと)」 「ちょっと、ミレイっ!?」 やけに、ぱたぱたと大きな足音が響く。 ……なんか勘違いしてるよ、あの娘は……。 「やれやれ。出ていってくれたか」 「な、な……」 「夜這いじゃないから安心してくれ」 後ろ手にドアを閉めながら、にっと笑うガウリイ。 「ったり前じゃないの!なんて事言うのよっ!?」 「なんて事、って言われてもなぁ……。 ああ言えば、すぐ出て行ってくれるだろ?」 「……まあ、そーだけどね……」 あたしは思わず、ほうっとため息をつく。 ストレートに言うより、ずっと角は立たない。――だけど、モノには言いようってもんがあるでしょうに……。 「で、ホントはなんの用?」 ベットに腰掛けなおし、ガウリイが椅子に腰掛けるのを待って、あたしは口を開く。 ミレイは本当に散歩に言ったのだろう、帰ってこない。 「いや、お前さんが金になりそうもない事に手を出すのは珍しいと思ってな」 「……あたしは守銭奴か……。 って言っても、お金になるかもしれないでしょ」 「そんな子供の落書き、あてになるのか?」 「落書きって、あのねえ……あたしとミレイの話、全然聞いてなかったの?」 「全然、って事はないぞ。半分くらいは聞いてたからな」 胸を張って言う彼。 ――って事は、後の半分は聞いてなかったのね……。まあ、毎度の事だけど。 「ガウリイ……今度はちゃんと聞いてよね。一回しか言わないから」 「わかった」 そのわかったってのも、どこまで信用していいのやら……。 しかし、一応、説明を試みる。 「これは落書きじゃなくて、暗号みたいなの。それによると、この地図の場所に行くと『真実の力』が貰えるらしいのよ」 「その『真実の力』って、なんだ?」 「それは、行ってみないとわかんない。でも、もしかしたら強力なマジックアイテムか、価値のある呪文書があるかもしれないわ」 「そう書いてあるのか?」 「ううん。――少なくとも、これには書いてないわ」 と、あたしはミレイの書いた方の紙を指差す。 「少なくとも……?」 「ホントのところ言うと……今言った『真実の力』うんぬんは、彼女がウソをついてないと仮定しての話だし……」 彼女が勝手に持ち出した――と、あたしは推測しているのだが――解読表がないと、実際に、なにが書かれているのか見当がつかないのだ。ひょっとすると、ガウリイの言ったように子供の落書きなのかもしれない。それとも別のなにかが書かれているのかもしれない。 ちなみに、彼女が勝手に持ち出したと推測したのは、彼女に解読表を見たいと言ったら、慌ててどこにあるかわかないと答えたからである。 どうも、魔道士協会に行きたくない理由があるらしい。協会で見たと言っていたのに……。 「どっちにしても、行ってみないとわからないって事か」 しばし無言で、なにやら考え込んでいたガウリイが、一言ぼそっと呟く。 「そっ!なにが出てくるかはお楽しみってワケね」 ミレイのように、わくわくするとまでは言わないけど。 「楽しそうだな、リナ」 「まあね。人生、色々あった方が面白いじゃない?」 「そーだな……お前さんといると退屈しなくていいよ」 くしゃっとあたしの頭を撫でて、部屋を出て行こうとする。 もうすぐ、彼女が帰ってくるだろう。 「じゃ、明日。早く出るから、寝坊しないでよ」 「お前さんこそ寝坊するなよ。まさかとは思うが……盗賊いじめに行かないよな?」 「行かないわよっ!」 あたしは、一つの疑問を胸に、ベットの上に座ったまま彼を見送った。 ――はたして、今の話、明日の朝まで覚えてられるんだろーか……? |